損保編の最終回は,任意保険とは相違点が多い「自賠責保険」の業務/システムをまず解説した後,保険自由化による業界再編を背景とした,損保会社による販売力強化の取り組みを紹介する。最近になって特に活発なのは,“プロ”の代理店を支援するシステム構築の動きである。

 Part13では自動車・火災・傷害などの多様な損保商品を対象に,保険契約の締結,保険料の受領,保険金の支払い,といった基幹業務の流れと,それを支える情報システムを解説した。これらの保険商品は,加入するかしないかを顧客が自由に決められる「任意保険」である。これに対して「自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)」は,自動車やオートバイの利用者が必ず加入しなければならない「強制保険」である。損保会社は自賠責保険のシステムを,任意保険のシステムとは別に構築・運用している。

 今回はまず,この自賠責保険にかかわる業務の流れとシステムを詳しく解説する。次に損保編の締めくくりとして,損保各社が注力している販売力強化や収益向上に向けたシステム化の動きを紹介する。

保険金に充てる資金を蓄積

 自賠責保険は,自動車事故による被害者の救済を目的とする保険である。「自動車損害賠償保障法(自賠法)」によって,公道を走行するすべての自動車とオートバイの利用者に加入が義務付けられている。

 強制保険である自賠責保険と,任意保険である自動車・火災・傷害などの保険には,様々な相違点がある(表1)。例えば,損保会社にとって任意保険は営利目的の保険商品だが,自賠責保険は強制保険という性格上,営利目的で運用することが認められていない。そのため自賠責保険の保険料は,適正と考えられる原価に基づいて,一律に決められている。保険料率の算定や事故発生時の損害調査は,非営利団体の「損害保険料率算定機構」が政府管轄下で行っている。

表1●自賠責保険と任意保険の主な相違点
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 損保会社は,顧客から自賠責保険の契約を求められたら,必ず引き受けることが義務付けられている。そのため,自賠責保険を扱う損保会社(および自賠責保険と同じ補償内容を持つ自賠責共済を扱う,全労災やJA共済などの共済組合)は共同で,各社のリスクと収支の均衡を図ることを目的として「共同プール」を運営している。

 共同プールとは,個々の損保会社から「純保険料」(契約者が支払う保険料のうち,支払保険金に充当される部分)を集め,各社に対して毎年1回,前年度の支払実績に応じて配分する仕組みのこと。損保会社は配分された純保険料を,契約者が起こした事故の被害者への保険金支払いに充てる。純保険料の徴収や配分などの事務手続きは,再保険会社であるトーア再保険(Part12を参照)が委託を受けて行っている。

代理店別に証明書綴りを管理

 実際の業務の流れを説明しよう。損保会社の代理店は,まず顧客(契約者)から必要事項を記載した契約申込書と保険料を受け取り,それと引き換えに「自賠責証明書」を渡す。その後,損保会社に申込書を送付するとともに,損保会社の指定口座に純保険料を送金する(図1)。第2回で解説したように,任意保険では顧客から受領した保険料を翌月末までに送金すればよいが,自賠責保険では速やかに(通常は1週間以内に)送金しなければならない。

図1●損保会社と代理店における,自賠責保険の契約から保険料受領,保険金支払いまでの主な業務の流れ
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 代理店は契約の際に,自賠責証明書10枚を1冊に束ねた「自賠責証明書綴り(つづり)」から1枚ずつ証明書を切り離して使う。この証明書綴りは,損保会社があらかじめ,自賠責保険を扱う代理店に発行しておく。損保会社は,発行した証明書綴りに含まれる個々の証明書の識別番号(証明書番号)を,代理店ごとに管理する。代理店が証明書綴りを使い切らなくても,損保会社は定期的に回収して,新たな証明書綴りを発行する。

 損保会社は申込書と証明書綴りを代理店から回収すると,個々の申込書と,代理店が顧客に渡した証明書を,証明書番号に基づいて照合する。さらに,申込書に記載された契約内容と,代理店から入金した純保険料の金額を照合する。

 この2つの照合作業の結果,問題がなければ,損保会社は純保険料を共同プール(具体的には,トーア再保険の指定口座)に送金する。

 以上の業務および保険金の支払いを支援するのが自賠責保険システムだ。主な機能は3つある。

 1つ目は,代理店に発行した証明書綴り,および代理店から回収した証明書綴りを,証明書番号に基づいて管理する機能である。この機能を,総務部門が利用する各種書類の在庫管理システムに実装している損保会社もある。

 2つ目は,代理店から受け取った契約申込書の内容を管理し,会計システムで管理している純保険料の入金情報と照合する機能。照合が完了したら,純保険料を共同プールに送金する。

 そして3つ目は,保険金の支払情報を管理する機能である。この機能は,自動車保険の対人賠償の機能とほぼ同じである。

 従来はこれらの機能を持つ自賠責保険システムを,損保会社が個別に構築していた。だが最近では,複数の損保会社が共同で,ASP(Application Service Provider)方式の自賠責保険契約管理システム「e-JIBAI」を稼働させ,話題となっている(「知っておきたい業界用語」を参照)。

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