生保業界の全体像を紹介したPart9に続き,2回にわたって生保の情報システムを詳しく解説していく。保険料などを計算する「数理システム」や,契約情報を長期にわたって保管する「契約マスターファイル」など,生保固有の仕組みについて,しっかりと理解して欲しい。

 生保業界におけるシステム化の歴史は古く,1960年代にはメインフレームの導入が始まった。当初は社内事務の効率化が目的だったが,その後システム化の範囲は急速に拡大。現在では多くの生保会社が,保険契約を中心とする「基幹系システム」,顧客情報や統計情報を商品開発などに生かす「情報系システム」,営業職員の業務などを支援する「周辺系システム」,保険料を元手に運用収入を得る「資産運用システム」などを構築している。

 生保のシステムには特徴がいくつかある。例えば,(1)数理統計に基づいて保険料や解約返戻金へんれいきんを計算すること,(2)プライバシーにかかわる情報も含めて多様な個人データを扱うこと,(3)顧客との契約が終了するまで非常に長い期間にわたって契約データを保持すること――などだ。

 システム化に当たっては,これらの特徴を考慮した様々な仕組み作りが求められる。一方で,ほかの業界と同様,Webサイトやコールセンターなど,多様化する販売チャネルへのシステム対応も重要な課題である。

 今回は,生保の中核業務である保険契約とその運用を支援する基幹系システムを解説する。契約業務がいかに情報システムと密接にかかわっているかが理解できるはずだ。

現在もメインフレームが主流

 生保会社の基幹系システムは,大きく3つに分類できる(図1)。保険料や解約返戻金の計算などを行う「数理システム」,顧客との契約が成立するまでの業務をカバーする「新契約システム」,契約成立後の多様な業務を処理する「契約管理システム」である。契約管理システムはさらに「契約保全」,「請求収納」,「保険金支払い」,「帳票作成」などのサブシステムで構成される。

図1●個人保険にかかわる主要な基幹系システムとデータの流れ
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 昔からシステムを構築・運用してきているだけに,大手生保の多くは現在でも,基幹系システムをメインフレームで稼働させ,データベースも階層型を利用している。しかし最近では,UNIXなどのオープン系プラットフォームとリレーショナル・データベースを採用する動きも出てきた。もっとも,こうした動きはまだ一部の中堅生保に限られている。

 生保各社は,自社の商品や事務処理の形態に合わせて基幹系システムを構築している。このため,どの企業の基幹系システムも機能が同じというわけではないが,共通部分も多い。ここでは多くの生保会社に共通する基本的な機能を中心に述べる。

料率ファイルで保険料を計算

 まず,基幹系システム全体の“基盤”とも言える「数理システム」を取り上げよう。数理システムは,保険設計書や保険証券の作成,契約内容の変更など,折々で必要になる保険料や責任準備金,解約返戻金の金額計算を「料率ファイル」に基づいて実行するシステムである。

 料率ファイルとは,各種の金額計算に必要な基礎データ(料率)を格納したデータベースのことだ。例えば保険料の計算に使う「保険料率」は,「保険金の単位金額(100万円など)当たり,保険料はいくら」といった形で定義し,料率ファイルに格納されている。このデータに基づいて,実際の保険金額に対応した保険料を計算するわけだ。

 生保会社の数理部門には「アクチュアリー」と呼ぶ保険数理の専門家がいる。このアクチュアリーが「生保標準生命表」(前号参照)や社内統計データを使って各種料率の計算式を決定。料率ファイルは,この計算式に基づいて作成される。

 料率は,保険商品の種類や契約者の年齢,払い込み方法・経路(後述)など,様々なパターンごとに計算するので,料率ファイルのデータ量は膨大になる。そこで最近では,料率ファイルを持たずに,アクチュアリーが作成した計算式に基づいてリアルタイムに金額計算を実行できるようにしている生保会社もある。

契約成立までの情報を管理

 次に「新契約システム」の説明に移ろう。新契約業務は,保険設計書の作成から,顧客による保険契約の申し込み,契約成立を経て,保険証券の作成・送付に至る新規の契約業務をカバーする。これらを「新契約ファイル」と呼ぶデータベースで支援する。

 新契約ファイルには,契約成立までに発生する様々なデータが格納される。例えば,顧客が申込書に記入した個人情報や保険契約に関する情報(通常は,営業職員が設計書の作成時に入力したデータを流用),顧客が告知書に記入した健康状態の査定情報,初回保険料などだ。このほかに,保険料の払い込み方法(年払い,月払い,数年分の保険料をまとめて支払う前納など)や払い込み経路(口座振替,給与天引き,営業職員による集金,口座振込,コンビニなどの店頭払い,クレジットカードなど)といった情報も格納しておく。払い込み方法や払い込み経路ごとの保険料のチェックには,料率ファイルが使われる。

 生保会社の多くは申込書をマイクロフィルムなどで保管しており,中には署名・捺印部分をイメージ・データ化して保険証券に印刷している会社もある。ただし損保の自動車保険のように,スキャニングした申込書の文字を認識し,データとして利用している生保はほとんどない。

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