Part2は,証券会社が持つ情報システムについて詳しく見ていく。リテール取引における注文から約定,決済に至る業務の流れに沿って,具体的な処理の内容を解説しよう。

 Part1は,リテール(個人向け取引)業務における株式の注文から決済までの大まかな流れを述べた。今回は,その流れに沿って業務を支えるシステムの概要について説明しよう。

 なお,証券取引には「現物(げんぶつ)取引」と「信用取引」という2つの方法があるが,以下では,現物取引のみを対象にする(両者の違いについては,囲み記事を参照)。

法令遵守チェックを実施

 証券会社における業務の出発点は,顧客からの注文である。注文を電話で受けた場合,証券会社の社員は,どの銘柄を何株売買したいのか,価格指定は「指値(さしね)」なのか,「成行(なりゆき)」なのかを顧客から聞き,店舗の端末から注文内容を入力する(指値と成行については,Part1を参照)。

 こうして店舗で手入力した注文データと,近年増加しているインターネット取引による注文データは,ともに証券会社のコンピュータ・センターで稼働する「注文系システム」に集約し,証券会社に特有の複数のチェックを実施する(図1)。

図1●注文系システムでの処理の流れ(取引日当日)
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 まず,株式を購入する場合は,その注文が成立したときに,顧客が購入代金を支払えるだけの資金があるのかどうかの「与信チェック」を行う。顧客が購入代金を支払えなければ,証券会社が証券取引所に対して,支払いを肩代わりしなければならないからだ。一般的に,証券取引を開始する顧客は,証券会社に取引口座(証券総合口座と呼ぶ)を開設する。そこで,この口座で運用している投資信託の1種である「MRF(Money Reserve Fund)」の残高を確認することになる。

 なお,口座残高が不足している場合には,顧客から証券会社が預かっている有価証券(「保護預かり証券」のこと。詳しくは後述)を担保として認めることがある。この場合も,約定した当日中に口座に入金がなければ,強制的に証券を売却することができる。例外的には,これまでの取引実績などを勘案して確実に入金があると部店長が認めたときは,注文を受けることがある。

 次に証券会社が「法的リスク(金融庁による処分など)」から自社を守るための「コンプライアンス(法令遵守)チェック」を実施する。具体的には顧客と売買対象の会社とが「特別な関係」にないか,銘柄そのものが取引所で「売買の制約」を受けていないかをチェックする。特別な関係とは「顧客が売買対象である会社の内部情報を知り得る立場にある場合」などを指す。いわゆる「インサイダー取引規制」をクリアすることが目的である。

 一方,売買の制約とは「その銘柄の取引が過熱している(異常に多い)」といった様々な理由から,証券取引所が個別銘柄の売買に何らかの制限を加える「取引所規制」などを指している。

 こうしたチェックに加えて,顧客に対する「投資勧誘行為が適切だったか」の確認も欠かせない。何が「適切」かは顧客の投資経験や,どれくらいのリスクなら許容できるかなどによって変わる。そこで顧客ごとに,商品が持つリスクについて適切な説明をしたか,不適切と判断されかねない商品を勧めていないか,などを総合的にチェックする必要があるのだ。

 これらのコンプライアンス・チェックを経て初めて顧客の注文データは取引所に送信される。同時に個々の注文に固有の番号(注文番号)を割り振り,「注文約定データベース」に,その内容を登録する。

約定後に必要な処理

 取引所で売買が成立することを,証券業界では「注文が出来た」という。注文が出来ると,出来(約定)の内容が取引所からデータとして証券会社に返ってくる(出来通知の受信)。同時に注文約定DBにも,この出来通知の内容を登録する。

 ただし出来通知の内容は,注文の内容と一致しないこともある。例えば注文は3000株だったが,出来たのは1000株だけ,という場合があるからだ。そこで注文系システムは注文約定DBに記録してある注文データと出来通知データの2つを照合。注文内容を満たす売買が出来たことを確認する。その上で,手数料や税金を考慮した「受渡金額の計算」を行う。

 もっとも証券業界には「同じ日に,同じ銘柄を同じ株数だけ複数回買う場合には,合計した株数で手数料を計算してよい」という「一口化ルール」がある。例えば1000株ずつ3回買うといった場合だ。この一口化ルールが適用になる場合は,取引時間が終了するまで,注文が出来るたびに受渡金額を再計算することになる。

 取引所における取引時間が終了すると,「当日の売買内容の確認」を実施する。証券取引所から取引終了後に送られてくる銘柄別の1日の売買データと,自社の注文約定DBのデータを照合するもので「市場照合」ともいう(図2)。

図2●約定系と決済系のシステムの概要
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 両者は一致することが大前提だが,万一異なった場合は,金融庁と取引所に「過誤訂正申告」をする。そのうえで,例えば売買した株式数が異なっていた場合は,その差分に当たる株式数を,証券取引所が指定した値段で証券会社が自社保有する株式を使って売買したとみなす。それに基づいて注文約定DBを修正し,最終的に売買を確定する。

 顧客が持つ口座の情報を収めた「顧客口座DB」における「証券残高」と「金銭残高」のデータを更新し,取引報告書を作成するのは,この売買確定の後になる。ここまでが取引日当日の夜間までに完了すべき処理である。

信用取引と現物取引の違い

 信用取引とは,顧客が証券会社に一定の保証金(現金か株式)を担保として預けることで,株式の購入に必要な資金を証券会社から借りて株式を買ったり,逆に証券会社から株式を借りて,その株式を売ったりできる取引のこと。手元に十分な資金がなくても,「A社の株価は上がる」と判断した時に資金を借りれば,より多くA社株を購入できる。逆に「B社の株価は下がる」と判断した時には,証券会社からB社株を借りて市場で売却し,株価が下がった時点でB社株を買い戻すことで差益を得られる。

 これに対して顧客が自らの資金で株式を売買する取引を「現物取引」という。

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