Part3は証券会社の法人向けビジネスである「ホールセール」の業務の流れについて解説する。「億」単位の資金がやり取りされる特殊な世界だが,これを知らずに証券会社のシステムは理解できない。

 この講座も後半に入った。Part2まで採り上げてきたリテール・ビジネスは対象が個人顧客だったので,比較的理解しやすかったと思う。これに対して今回から採り上げるホールセール・ビジネスは法人,しかも「機関投資家」と呼ばれる資産運用のプロが顧客だ。やり取りされる金額は,億単位に上ることもある。

 このため“縁遠い”世界に見えるかもしれないが,実はそうではない。Part1でも述べたように,我々の生活と深いつながりを持っているのだ(図1)。

図1●「投資のプロ」である機関投資家(投信委託会社,保険,会社,信託銀行など)を通じた証券投資
一般の“生活者”の資金が,様々な形で証券市場に投資されている
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 ホールセールの知識は証券業界に詳しいITエンジニアを目指すのであれば,必ず知っておかねばならない。なじみの薄い用語が数多く登場するが,理解するよう努めて欲しい。

機関投資家とは何か

 まず,ホールセールの顧客である機関投資家について整理しておこう。これは投資信託(投信)委託会社や信託銀行,投資顧問会社,生命保険会社,損害保険会社,年金基金,公的な金融機関である郵便貯金/簡易保険などの総称である。

 「投資信託」という言葉が出てきたが,これは投資家から集めた資金をファンド・マネジャーというプロが運用し,運用で得た利益を投資家に配分する金融商品のことだ。一般的に「○○ファンド」とか「××オープン」のような名称が付いており,証券会社や銀行で購入できる。

 このファンド・マネジャーが所属し,投資信託を実際に運用しているのが,投資信託委託会社である。個人顧客が投資信託を購入すると,その資金はファンド・マネジャーを通じて証券市場に投資される。

 投資顧問会社も聞き慣れない業態かもしれない。投資顧問業一般は,投資家に投資のアドバイスを提供することを指すが,ここでは年金などの運用の委託を受ける資産運用会社のことを言う。自前のファンドを販売・運用する会社もある。

 また,年金基金は我々が老後の保障のために拠出する年金を運用・管理する組織を指す。国民年金や厚生年金保険のような「公的年金」と,企業が社員のために運営する「企業年金」,生命保険会社の個人年金のような「私的年金」がある。

ホールセールの“参加者”とは

 こうした機関投資家を証券の買い手という意味で「バイサイド」と呼ぶのだが,ややこしいことに,このバイサイド同士でも,「一方が顧客で,他方がサービス提供会社」という関係が存在している。

 例えば年金基金は,資金の運用については投資顧問会社と契約(投資一任契約)を結んで,委託することが多い。この契約の場合,運用方針の策定や注文銘柄の選定といったアドバイスを受けるのはもちろん,実際の発注までを任せてしまう。

 実態はこうだが,日本の法律では投資顧問会社は資金および有価証券の受け入れを禁止されている。そのため,投資顧問会社との契約とは別に,信託銀行とも契約(特定金銭信託契約)を結び,資金管理を任せる必要がある。具体的には信託銀行に口座を開設して資金を預ける。この際,口座の名義は信託銀行になるのが,この特定金銭信託契約の特徴である。このように,同じバイサイドでも,年金基金などの「委託者」と投資顧問会社や投信委託会社のような「運用会社」そして信託銀行などの「受託銀行」に分類できるのである(図2)。

図2●「ホールセール市場」にかかわる企業
運用会社,受託銀行,決済機関など多様な企業がかかわる。このうち注文の出し手を「バイサイド」,注文の受け手を「セルサイド」などと,独特の呼び方をする
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 証券会社は,機関投資家(バイサイド)からの注文を受けて,証券市場(証券取引所や債券市場など)に実際に注文を出す。バイサイドからは,証券会社は「証券の売り手」に見えるので,バイサイドと対比する意味で「セルサイド」と呼ぶ。

 このバイサイドとセルサイドに加えて,ホールセール・ビジネスには重要な“参加者”がいる。リテール・ビジネスの説明の際にも登場した,証券および資金を決済する「決済機関」が,それだ。

 詳しくは後述するが,決済機関は株式や国債といった商品ごとに異なっており,株式の決済の場合はリテールと同じ「証券保管振替機構(保振)」が決済機関になる。

 証券の決済は,(1)機関投資家と証券会社の間,そして(2)証券会社間で必要になるが,保振はその両方の決済を担当する(証券の決済についてはPart2を参照)。

 なお,(1)の機関投資家と証券会社の両者を合わせて「カスタマーサイド」,(2)の証券会社間を「ストリートサイド」と呼ぶ。前者と後者では決済の方法や制度などが異なるために,このように異なる呼び方をする。

 カスタマーサイドは“顧客側”といった意味であり,ストリートサイドは,米国の金融街であるウォールストリートが語源とも言われる。

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