「この回線、スピードはどれくらい出る?」─。以前はADSLで、最近ではLTEで、しばしば耳にする話題である。

 果たして、私たちが利用している回線サービスは、実際はどの程度のスループットなのだろうか。九州大学・実積寿也教授が、固定網を対象に実施した調査によると、広告表示されているスループットに比べ、FTTHサービス(100Mビット/秒)で平均40.8%、CATVインターネットでは57.5%、ADSLでは41.8%程度しか、実際のサービスでは計測できないと言う。

 より正確な数値を得るためには、より多くのサンプル数や様々な計測パターンが必要だ。従って、この数値だけで回線品質の評価を一刀両断に下すべきではない。しかしそれでも、額面の半分程度というのは、やはり厳しい結果だ。一概に比較はできないが、例えば高級スポーツカーを買ったつもりなのに、軽自動車と同じ程度のスピードしか出なかったら、消費者としては憤りを感じるだろう。

日本はもはやナンバーワンではない?

 こうした議論が、このところにわかに注目されている。きっかけは4月に開催された産業競争力会議で、楽天創業者の三木谷浩史氏が率いる新経済連盟が行った政策提言の中で触れた、ブロードバンド環境、特にスループットの国際比較である。

 日本のブロードバンド環境は、ある時期は世界の最先端だと言われた。しかし、世界各国もキャッチアップを進めており、国際比較をしてみると日本がナンバーワンとは言い切れない状況になってきた。

 この傾向はLTEではより顕著となる。少なくとも表面上の比較では、必ずしもトップクラスとは言えない状況だ。しかもそのスループットが広告表示の値とは程遠い。前述の実積教授の調査は固定網を対象としているが、モバイルについても「A社のLTEはスループットが日々低下している」「B社のLTEはある状況下でないと期待通りのパフォーマンスが得られない」といった声を、周囲の利用者はもちろん、ソーシャルメディアなどから容易に拾える。

広告はあまりに誇張し過ぎ

 この現実には、2つの問題がある。一つは広告における表示の妥当性だ。いくら「ベストエフォート」という免罪符があるとはいえ、さすがに誇張し過ぎであろう。通信回線の品質はスループットだけで評価できるものではないが、速度と料金の間に一定の関係がある以上、看過できる問題ではない。日本では業界団体の自主基準で、ある程度、広告表示のルールが定められている状況だが、実際にはこのありさまだ。その一方で、例えば英国では、規制当局であるOFCOMが広告表示に関する規制を進めている。

 もう一つの問題は、私たち消費者に、通信サービスの選択肢が十分提供されていないという事実だ。

 本来ならば、スループットをはじめとした様々な要件ごとにサービスが分類され、相応の値付けがなされるべきだろう。しかし現状の回線サービスは、それほど整理された状況にはない。

 高品質なサービスには相応の料金を、また最低限の品質で低価格を、必要に応じて選択できる─そんな当たり前のメニュー構成が、回線サービスには存在しない。そして私たち消費者も、提供されたサービスを黙って受け入れているのが、実態と言えよう。

 日本の通信サービスは、いまでも世界最高水準であり、比較的安価に提供されていると私は信じている。しかしこれからは、単にスペック上の速度を追いかけるのではなく、消費者のニーズをより的確に反映したラインアップをそろえることが、期待されるのではないだろうか。それこそが、真に通信サービスが成熟する王道と思える。

出典:日経コミュニケーション 2013年6月号 p.88
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