国際標準化の会議に参加するため、ケニア・ナイロビに来ている。赤道直下に位置するものの標高が高く、年間を通じて過ごしやすい気候である。またコモンウェルス(イギリス連邦)の一員だけあって、英語も普通に通じ、英国流の洗練された社会インフラ整備がなされている。同じく新興国のインド・デリーあたりの雰囲気にも通じるものがある。

 実際、ケニアとインドとの結び付きは強い。空港に着いて入国審査前にまず目に入ってくるのは、インド最大の携帯電話事業者バーティ・エアテルの看板とブースである。またケニアはインド洋を渡る海底ケーブルの陸揚げ地でもあり、通信回線事情も予想以上に良好だ。

 そして新興国だけあって、通信インフラは総じて、有線より無線の方が普及している。会議場などでも当然のように無線LAN環境が整備されているが、それよりも3G回線の方が安定している。

 驚くべきは、もはや市街地ではGSMがほとんど見あたらない点。3Gが予想以上に普及している。欧州諸国よりも3G普及が進んでいるのではないだろうか。後発の優位性を生かし、いきなり最新技術を導入する“進化の先取り”を地で行く展開である。

アフリカに食い込む中国勢

 しかしこうした新興国の躍進を支えるプレーヤーとして、日本勢の姿がなかなか見えてこない。通信事業者といえば現地のサファリコムかインドのバーティだし、業界関係者に聞けばそのインフラはほぼ中国ベンダーが作っているという。端末は、ノキア、サムスン電子などの大手と、華為技術をはじめとする中国勢がほとんどである。

 日本勢の存在感がゼロというわけでない。日本人の目線で注意深く状況を追えば、日本勢の痕跡があちこち見え隠れしている。

 例えば、通信ではないが、ケニアは左車線だということもあり、この地で見るクルマは中古を含めて右ハンドルの日本車ばかりである。また、この原稿は滞在先のホテルで書いているが、ホテルのネット回線はNTTドコモの100%子会社であるシンガポールのドコモインタータッチが提供している。

 ただ悩ましいのは、それらはすべて現地の人々から見えにくい存在か、あるいは日本以外の国の貢献のように見えてしまっている点である。先日、日本からの輸入中古車を利用したタクシーに乗ったのだが、運転手に話しかけたところ、下車するまでの30分間、会話は「中国礼賛」に終始した。曰く、中国は何でも持ってきてくれる。電話も、道路も、ビルも、このクルマも。私たちは〈あなた方〉に大変感謝している---なんとも複雑な心境だ。

 私自身は、別に民族主義者でもないし、ビジネスにおいては実利を優先すべきと思っている。しかし自らの努力が曲がった形で解釈されるのは、中長期的な信用に影響が及ぶと考えている。

 アフリカ諸国の一部には、中国の行き過ぎた開発施策に対して、苦々しい思いを抱く国も出てきていると聞く。本来ならこれは日本にとってチャンスのはずなのだが、現実は、上記のタクシー運転手のように日中の区別さえ怪しいところ。中国と一緒くたにされて日本まで評判を落とすことにでもなれば事態は深刻だ。

 国内市場が飽和した日本の通信産業が成長を続けるには、レイヤーの如何を問わず、今後否応なく海外進出を拡大する必要がある。しかし、単純に海外に出ていって仕事をするというスタンスでは、おそらく利益を得ることなく終わるだろう。

 海外市場とて、信用が重んじられることは何ら変わることはない。ならば、「私はここでビジネスをしています」ということを宣言する、広い意味でのマーケティング活動に、日本勢はもっと注力しなければならない。

出典:日経コミュニケーション 2011年11月号 p.97
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