連載を始めるに当たり、あれこれ考えた結果、やはりスペインのバルセロナで開催されたモバイル関連の展示会「Mobile World Congress」(MWC)を振り返ってみたい。

 2011年のMWCは、ここ数年で一番面白かった。リーマンショック直後で停滞した2009年、次世代無線通信規格の本命がLTEにそろったものの端末やサービスが追いついていなかった2010年に比べ、今年は「LTE、クラウド、スマートフォン(Android)、アプリ」に論点が集約されたからだ。

 その一方で、論点が定まったからこそ改めて物足りない点がハッキリ見えたMWCでもあった。例えば今年は間違いなく主役であるはずの「米国勢」が、MWCでは相変わらず存在感を感じさせなかった。米マイクロソフトとフィンランドのノキアは戦略提携するものの具体像はまだ見えず、米グーグルのエリック・シュミットCEOのプレゼンも迫力不足。米アップルも、今年はMWCに来ると噂されながら、結局誰もいなかった。

LTEの普及は「ババ抜き」状態に

 同じことはLTEのエコシステムに関しても言える。世界中のオペレーターやベンダーは、異口同音に「LTEの普及は米ベライゾン・ワイヤレスがけん引する」という。しかし、「ちまたで言われているほどにはベライゾンが基地局を調達しないので、市場が盛り上がらない」という愚痴も関係者から聞こえてきた。実際ベライゾンは、派手なエリア展開の目標を打ち立てているものの、当面は地方中心で、LTEのエコシステムに大きな影響を及ぼす米国都市部での敷設に向けた調達本格化は、まだこれからという状況のようだ。

 こうしたLTE普及の状況は、「ババ抜き」のように見える。規模の経済の観点からすれば、誰かが大口の調達を進めなければ、基地局や周辺システムの費用は下がらない。だがLTEへのニーズが顕在化している先進国は総じて経済状況の見通しが悪く、高値づかみというババは引きたくない。一方で、通信規格の選択はライフサイクルの長い話であり、ヘタな手を打てば、事業の失敗どころか経営が傾く。

 そんな中で「さすが」と思わせたのは、スウェーデンの大手通信インフラベンダー、エリクソンだ。米アカマイ・テクノロジーズと戦略提携し、モバイル分野でオペレーター向けに高速化ソリューションを提供することを発表した。これは言い換えれば、3Gインフラの延命と顧客満足の向上を、CAPEXとOPEXの付け替えによって実現する、過渡期の商機を狙ったズバリの商品である。しかもエリクソンはこれを軸に、通信事業者向けのアウトソーシング事業を強化しようとしている。「商売って、つまりこういうことですよね」というお手本のような仕事ぶりである。

MWCだけでは見えないモバイル業界

 そんな一連のMWCの動向を見て気付いたことが二つ。一つは、MWCに米国勢という「主役」が不在だったことを考えれば分かるように、2010年代のケータイ産業は「MWCだけ見ていても分からない」状況に入ったことだ。

 もう一つは、MWCで見られた動きは日本にとって無縁ではない点である。LTEの「ババ抜き」は、ベライゾンがパス気味なら次は日本のターン(順番)だし、アカマイとの提携によるエリクソンの商品もデータARPUが音声を上回りつつある日本のトラフィック爆発の状況にこそフィットしている。気がつけば、「日本はガラパゴス」という概念自体が、もはや賞味期限を過ぎたのかもしれない。

 今年のMWCでは、日本人の姿が多く見られた。もしかすると、こうした新たな課題が山積する状況を自ずと察したがゆえ、だったのかもしれない。課題あれば商機あり。だとすると日本のケータイ産業も、この先まだまだ面白いことがたくさんありそうだ。

出典:日経コミュニケーション 2011年4月号 p.89
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