「Windowsの出来映えには舌を巻くね。iTunesも大したものだ。日本人はこういうものを作れないでしょう」。

 こう言い切られて「はい、その通りです」と同意するわけにはいかない。ITpro読者の皆様も同じだと思う。早速反論を試みた。

 「Windowsはシェアこそ高いですけれども、さほど出来がいいOSとはいえません。ハードウエア資源をむやみに消費しますし、いつまでたってもバグが出てきます。iTunesは、商売まで含めた全体の仕掛けはよく出来ていますが、ソフトウエアだけ見れば先行していた製品がありますから、アップルの独創とはいえません」。

 先方はまったく動じない。

 「ソフトだからバグはあるでしょう。マイクロソフトの技術者はバグの存在を知って対処を進めている。個々のバグの話ではなく、あれほど膨大かつ複雑な機能を持つ巨大なものを我々日本人は作りうるのか、ということです。iTunesの先行製品を作ったのも日本人ではないでしょう」。

 確かにOSにしろ、ブラウザにしろ、データベース管理システムにしろ、パソコンにしろ、オリジナルは海の向こうで産まれている。例外もあろうが、それを掲げて「日本人にも西洋人と同等の独創性がある」と言い張るのは苦しい。引き下がってはいけないと思いつつ、それ以上反論はしなかった。

「絶対の探求」を続ける西洋

 「日本人に独創性は乏しい」という、はなはだ面白くない発言の主は、早稲田大学名誉教授の松原正氏である。専門は欧米文学や欧米演劇であり、80歳を超えた今でもパソコンを使っているとはいえ、ITについては素人だ。

 筆者がなぜ松原氏に会ったのか。以前手掛けていた日経ビステックという雑誌に原稿を書いてもらおうと頼みにいったのである。日経ビズテックは2004年から2005年にかけて発行されたので、上記のやり取りは6年前のことになる。

 久しぶりに日経ビズテックのバックナンバーを取り出して表紙を眺めると、「MOTを究める技術経営戦略誌」と書かれていた。「ITを究める情報技術戦略誌」と書いてあるようなもので何やら分かりにくい。そのせいかどうか、日経ビズテックを第10号まで発行できたものの、2005年末に休刊せざるを得なくなった。いつの日か復刊したいと思っているが機会が無い。

 それはともかく、なぜ文学者の松原氏に技術経営戦略誌向けの原稿を依頼したのか。それは松原氏が書いた『人間通になる読書術 賢者の毒を飲め、愚者の蜜を吐け』という本を読み、色々と考えさせられたからであった。

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