3月1日月曜日、「今週は大事なイベントが多い。すべてうまく乗り切れるかな」と思いつつ出勤した。火曜日には大手町でアナリスト向けにネットワークのトレンドについて90分の講演、水曜日には大型案件での役員プレゼン、金曜日には販売代理店向けのセミナーで70分の講演が予定されていた。

 結果的にはすべて「客観的に」満足できる出来だった。自己評価ではなく他人評価で、という意味だ。例えば、販売代理店向けセミナーは東京の会場で200人あまり、映像中継された地方で100人あまりが聴いてくれたのだが、アンケートに多くの方が好意的なコメントを書いてくれた。こんな感じだ。

  • 松田さんはNEC(筆者が勤務する会社)の救世主です。機会をとらえてNECメンバーをエンパワーメントしていただきたいと考えます(実践に裏付けられた具体的提案は迫力があります)
  • プレゼン方法の良さ、参考となる貴重な内容、NECのよさを追求する姿勢などよい話をきかせていただきました
  • 松田氏の話に引き込まれてしまい、あっという間の時間であったが、もう少し時間が欲しかった(もっと聞いていたかった)

 ふだんやっているユーザー向けの講演とは視点も、話し方も変えて講演した。NECがモノを作る会社である以上、営業は自社製品に誇りを持って売るべきだし、開発は誇りの持てる製品を作るべきだ。私は「誇りを持って」提案している製品だけを取り上げた。

 さて、今回はバンクーバー冬季五輪女子フィギュアスケートの浅田選手とキム・ヨナ選手の戦いをモデルに「プロジェクト」とは何か、プロジェクトを成功させるために何が必要なのかについて述べたい。

プロジェクトとは何か?

 筆者は浅田選手のファンで、以前も「浅田真央的“エレメンツ”で考える提案書作成」というコラムを書いたことがある。今回のオリンピックでは本番の競技だけでなく、ドキュメンタリー番組等で報道された浅田選手、キム・ヨナ選手のバンクーバーで金メダルを取るための戦略やトレーニングなどのプロセスにも関心を持っていた。

 浅田選手がキム・ヨナ選手に敗れたとき思ったのは「浅田選手がキム・ヨナ選手に負けたのではない。浅田真央プロジェクトがキム・ヨナ プロジェクトに負けたのだ」ということだ。選手個人の能力はおそらく浅田選手の方がキム・ヨナ選手より上だ。しかし、プロジェクトとしての実力はキム・ヨナ プロジェクトの方がはるかに上だった。浅田真央プロジェクトはプロジェクトのお粗末さを浅田選手個人の頑張りでカバーしてやっと銀メダルに届いたのだと思う。

 プロジェクトとは特定の目的を達成するための戦略と計画を持った人の集団であり、そのリーダーがプロジェクト・マネージャーだ。プロジェクト・マネージャーの仕事は目的を明確化し、戦略と計画を策定し、必要な人材を集めてプロジェクトを構成し、プロジェクトを遂行する過程でトラブルを予見・回避したり、発生してしまったトラブルを解決して目的を達成することだ。このプロジェクトの定義とプロジェクト・マネージャーの役割はオリンピックで金メダルを取るプロジェクトでも、ネットワークやシステムの提案コンペでも、受注したネットワークの構築プロジェクトでも同じだ。

 フィギュアスケートで金メダルを取ることは選手一人で出来ることではなく、コーチ、振付師、曲を編曲する音楽家、体調を管理するトレーナー、移動のための交通やホテルの手配をはじめ雑用をこなすマネージャーなど、多くのスタッフから成るプロジェクトが必要だ。そしてプロジェクト成功のために一番重要なプロジェクト・マネージャーは選手ではない。コーチだ。

浅田プロジェクトの敗因

 浅田真央プロジェクトの何が悪かったのだろう。まず結果から見れば浅田選手とキム選手の得点は205.50対228.56。我々素人はこの数字の差くらいしか分からないのだが、フィギュアスケートの採点システムは複雑だ。8つの決められた要素を入れるショートプログラム(SP)の得点と、フリースケーティング(FS)の得点の合計で勝敗が決まる。SPの2人の得点は73.78対78.50でキム選手が4.72ポイント上回っていた。FSに強い浅田選手の逆転が期待されたが、FSの得点は131.72対150.06となり、予想もしない大差をつけられた。

 FSの得点は技術点と演技構成点からなる。振り付けや技のつなぎなど5項目で評価される演技構成点は全項目でキム選手が浅田選手を上回ったが、得点は67.04対71.56で差は4ポイントあまりしかなかった。大きく差がついたのはジャンプ、ステップなど4つの項目が評価される技術点で、64.68対78.30だった。しかも、浅田選手が本来得意とするジャンプで42.38対56.70と14ポイント近い差をつけられたのだ。女子で初めて3回転半ジャンプを2回成功させたにもかかわらずこの結果になったのは、技の完成度に付与される加点をキム選手が12ポイント獲得したのに対し、浅田選手は4ポイント足らずしか取れなかったからだ。

 一言で結果をまとめるなら、3回転半ジャンプという一点豪華主義戦略で臨んだ浅田選手に採点システムの特徴に合った総合的高完成度戦略のキム選手が勝ったと言える。

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