特オチという新聞用語がある。他誌がこぞって報じた重大ニュースを掲載できなかった(落とした)ことを指す。特オチをしでかした記者や編集者には、「××で特オチ」というレッテルがついて回る。

 雑誌の場合、必ずしもニュースが売り物ではないから「あの雑誌が特オチをした」という言い方はあまりされない。しかし、多くの雑誌が報じていることを、ほとんど報じてこなかったとしたら、特オチと呼んでもよいと思う。

 残念ながら、わが日経コンピュータは過去数年にわたって、特オチを続けてきた。それはグーグルの動向に関してである。今や、グーグルに関する書籍は多数出版され、様々な雑誌が繰り返し、特集を組んでいる。ところが、コンピュータ専門誌でありながら、日経コンピュータはグーグルのことをほとんど報じてこなかった。

 編集部が手抜きをしていたわけではない。報道し損ねた理由は、日経コンピュータが主として企業情報システムについて報道してきたため、消費者向けインターネット広告会社として出現したグーグルを取り上げるのがなかなか難しかったからである。

 もう4年ほど前になろうか、日経コンピュータの編集会議で「さすがにグーグルを取り上げないのはまずい」という議論になった。とはいえ、「グーグルの企業利用」といった企画にすると、こうして文字にしているだけで面白くなさそうだし、そもそも企業利用の事例がほとんど無い状態であった。

 筆者は当時、日経コンピュータ編集部にいるような、いないような状態であったので、「こういう方針でやりましょう」と発言する立場になかった。その会議の結論は「グーグルで興味深いのは技術。どのような仕組みで検索サービスを実行しているのか、公表されている論文を丹念に見ていけば分かるはず」というものだった。だが、結局、それに取り組む記者が現れず、そのままになってしまった。

たくさんあるアイデアからどれを選ぶか

 今年の1月、日経コンピュータ編集長に就任し、編集部の記者達と話をしてみると、「グーグルをしっかり報じたい」という意見が多かった。それでは「どういう切り口(企画のこと)で書くのか」と尋ねると、編集長としてゴーサインを出せる企画がなかなか返ってこない。

 これは決めてしまうしかないと考え、「秋にグーグルの大特集を掲載する。全員、なんらかの企画を出すように」と指示した。普通は企画があって掲載時期を決めるのだが、グーグル特集については、とにかくやることを決めてから企画を募った。

 多くの記者から色々な提案が出された。しかし編集長として「この企画でいく」と言い切れなかった。どれも悪くないのだが、長年にわたる特オチという汚名をそそぐ企画かというと少し弱い。編集部員の名誉のために付け加えると、グーグルについては相当なことが報じられており、まったく新しい企画を出すのはかなり難しい。

 企画とは別に、グーグル本社を取材できるのか、という課題があった。どちらかと言えば、グーグルは取材を受けない企業に入る。グーグル特集を作るのに、米国本社を訪問できない、というのはさすがにまずい。

 編集部員全員から提出された企画メモを前に、取材もどうなるか分からない状態で、どうしたものかと唸っていた時、ひらめいた。

 「困ったときは全部やろう」。

 全員が出した企画にゴーサインを出せば、あれこれ悩まなくて済む。グーグルの取材が入れば結構なことだし、入らなくても複数の企画をまとめて掲載すれば、雑誌として格好が付く。

 早速、編集会議で「グーグル特集は全員参加で作る」と宣言した。さらに、インタビュー欄、成功事例を報じるケーススタディ欄、失敗事例を実名報道する「動かないコンピュータ」、情報システムに関係するデータを報じる欄、編集委員が執筆するコラムまで、日経コンピュータのほぼすべての欄でグーグルを取り上げるように指示した。

 こうして、企画を選ぶという課題は、選ばないことによって解決できた。正確に書けば、解決した気分になった。残るはグーグルの取材の可否である。担当記者に「一冊まるごとグーグル特集をするのだから、なんとしても取材を入れてくれるように頼め」と命じ、「取材が入らなかった場合、とにかく現地に行って、毎日受付に通え」と付け加えた。

 グーグル特集号の締切日が近づいてきた頃、ついにグーグルから「取材を受ける」と連絡が入った。しかも、こちらから出した要請のうち、創業者とCEOのインタビューだけは受けてもらえなかったが、それ以外のほぼすべての取材に応じるという。最終的に、30人近いグーグル社員が日経コンピュータ記者に会ってくれた。

 その取材結果に加え、もともと用意していた様々な企画を合体し、一冊まるごとグーグル特集号を世に送り出せた。部員が頑張ってくれたおかげで、長年の特オチ問題に決着を付けられた、と勝手に思っている。

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