図1●政府情報システムの現状と将来像
出所:「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会」中間取りまとめ
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 総務省が掲げる霞が関・自治体クラウドの計画が本格的に動き始めた。同省は2009年8月10日、「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会」の中間取りまとめを公表した(資料はこちら)。これは、2015年の本格稼働をターゲットとして、府省の情報システムの将来像を描いたものだ。これによると、現在は府省ごとでバラバラに構築・運用している情報システムのうち、共用可能なものを霞が関WAN内のデータセンターに集約する。その際に、基盤となる「政府共通プラットフォーム」を開発。この上でアプリケーションをSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)形式で利用する。政府共通プラットフォームには、府省間で共通利用するデータを連携する機能も含まれる(図1)。この政府版プライベート・クラウドが、霞が関クラウドの実態である。

府省横断の業務改革が不可欠に

 この取り組みで重要なのは、どれだけアプリケーションを共用化できるかという点だろう。府省ごとに利用しているアプリケーションをそのままSaaS化するだけでは、単にWebアプリケーションのホスティングにすぎない。システムだけの統合・集約に終わらずに、業務プロセスの統合・集約、すなわちシェアード・サービス化にまでつながらなくては、大きなメリットを得ることはできない。

 そのためには、府省を横断した業務の標準化が不可欠となる。中間取りまとめでも、業務の見直し(BPR)を課題として掲げている。しかし、その道筋は見えてこない。中間取りまとめの資料には、2009年度から2015年度までのスケジュール(予定)が掲載されているが、業務の見直しに関連するような工程は2010年度中の「要件定義」と「最適化計画策定」の2つだけだ。府省横断で業務を改革した上でシステム要件を定義するまでを、1年足らずの期間で完了できるのだろうか。

 短期間での業務改革を実現するためには、強力なリーダーシップが必要だ。府省を横断して大なたを振るえるとしたら首相しか考えられないが、総選挙を間近に控えた今、実働部隊となるプロジェクトメンバーを選ぶことさえもままならないのではなかろうか。

自治体クラウドが実証実験へ

 一方の自治体クラウドも実現へ向けて大きく動き始めている。総務省は2009年7月17日、「自治体クラウドに係る開発実証団体」の募集を開始。実証実験に参加する都道府県を募り始めた(資料はこちら)。都道府県CIOフォーラム(詳しくはこちら)の事務局を務めている日経BP ガバメントテクノロジーでは、8月のフォーラム開催に向けて事前アンケートを実施しているが、実際にいくつかの都道府県が実証実験に参加する予定だと回答している。

 自治体クラウドは、自治体専用のWANである総合行政ネットワーク(LGWAN)内にあるデータセンター(3カ所の予定)に市町村のシステムを統合・集約する取り組みである。市町村レベルでのシェアード・サービス化ととらえることできる。市町村の場合は、それぞれが同じような住民サービスを提供しているため、シェアード・サービスに向いているといえる。

 理想論でいえば、全国の自治体が利用するシステムを統一すれば、コスト面で大きなメリットを得られるし、ガバナンスを効かせやすいというメリットも生まれる。しかし、アプリケーション(あるいはSaaS事業者)の品質を維持できるのかが見えない、地域特性による個別のサービスが提供しにくい、あるいは地場のITベンダーが育成できないなどデメリットも少なくない。実際、総務省の実証実験では、ASPやSaaSは自治体側が選択できるようにしてある。自治体クラウドは当面、都道府県単位のシェアード・サービス化ということになりそうだ。

 ただし、都道府県単位でバラバラの仕様のシステムを作るわけではない。自治体クラウドの要件の中には、「自治体クラウド連携インターフェイス」というものがある。これは、アプリケーション間でデータを連携するためのインタフェースで、将来的には都道府県間の連携も見据えたものになっている。

 とはいえ、都道府県を横断したアプリケーションの共用化は容易ではないだろう。都道府県をまたいで業務を標準化しなければならないからだ。自治体クラウドと霞が関クラウドの両方に共通することであるが、IT面での研究や実証・分析に偏らずに、業務の標準化にも力を入れていかなければ成功はおぼつかないだろう。というよりも、IT面の実装よりも、業務の改革・標準化のほうがハードルが高いのではないだろうか。