マイクロソフトが2年前に創造した新しい役職,ユーザーエバンジェリストは,現在,世界に23名,日本にはわずか2名しかいません。

 ユーザーエバンジェリストに与えられた使命は,「趣味などに熱心に取り組んだり,生活を楽しくするために,パソコンやモバイル,インターネットを利用したICTの新しい活用方法等を提案,紹介すること」です。世界で初めてユーザーエバンジェリストになった金尾卓文さんは,この使命を果たすために,外部のコミュニティに直接オフラインで接する一方で,ブログを使ってお客様とのコミュニケーションを図っています。

 これからは,マイクロソフトのみならず,多くの企業でユーザーエバンジェリストという新しい役割とブログが注目され,活躍をすることになるでしょう。そこで今回は金尾さんにお聞きしたお仕事ぶりと,ユーザーエバンジェリストブログを見ながら,その可能性を考えます。

社内公募でモラルの高い人を選ぶ

 エバンジェリストとは文字通り「伝道者」です。ICTの知識はもちろんのこと,強い使命感と,ユーザーに対する愛情がなければなりません。ですから,私が最初に直感したのは「モラルが高い適任者を選ばなければ,間違いなく失敗する」ということでした。ネット店長やメルマガ,ブログ編集長も「人が命」ですが,エバンジェリストは,それ以上に「人を選ぶ」はずです。そこで,金尾さんがどうやってユーザーエバンジェリストに選ばれたのか,大変興味がありました。

 その答えはきわめて簡単でした。社内公募に手を挙げた立候補者の中から選ばれたのです。金尾さんは,もともとこうしたエンドユーザーとのコミュニケーションに興味があったこともあり,この新しい職種の公募を知って,真っ先に手を挙げたそうです。

 ユーザーエバンジェリストという仕事は,自ら立候補するほど興味も使命感も旺盛で,モラルの高い人でなければ勤まらないでしょう。それから,多くの個人,それもシニア層からジュニア層まで,直接,面と向かって接することを考えれば,人当たりの良さも大切です。金尾さんにお会いすればすぐ分かるのですが,IT業界の中堅社員には珍しい(?)人なつこい笑顔をお持ちです。しかも,ムリをして笑っている感じもありません。おそらく,人事担当者は,金尾さんのお人柄を見てユーザーエバンジェリストに任命されたのでしょう。

特定のプロダクツを販売しなくてもいい

 とはいえ,良い人材をユーザーエバンジェリストに選び,「お客様の役立つ楽しい提案を」と命じただけでは不十分です。おそらく,その行動にどれだけの自由度を与えるかで「期待しうる効果」は大きく変わってくるでしょう。

 私も,かつて大手証券会社でファイナンシャル・プランニングのシステムの企画と普及を担当していました。簡単に言えば,お客様のプロフィールやニーズに合わせて,ぴったりの金融商品を組み合わせてポートフォリオにして提案するのです。しかし,お客様に最適の提案をした結果,他業態の商品を勧めたり,今まさに売りたい商品の比率が低くなることもあるのです。これが,営業の現場や,商品企画部門から大きな反発を生んだこともありました。

 つまり,お客様志向を徹底するためには,短期的な商品別の販売ノルマがあると不都合なのです。ユーザーエバンジェリストの顔をして,その正体が特定商品ばかり売りつけるセールスマンでは,お客様の信頼を得られないでしょう。

 そこで,金尾さんに,特定のプロダクツを売るというミッションがあるかという疑問をぶつけてみました。その答えは「NO」でした。お客様のニーズに答えるために,結果として自社商品を勧めることはあるそうです。しかし,最初から特定の商品を販売するために,イベントをしたり,キャンペーンをすることはないとのことでした。もっと大きな意味で,ICTを使う楽しさを伝えることがミッションだそうです。

イベントやブログ等へのアクセスで評価

 それでは,何をもって金尾さんたちユーザーエバンジェリストの仕事ぶりが評価されるかが気になります。

 詳しくは企業秘密なのでお聞きできませんでした。しかし,お話から推測するに,主催・共催するユーザー向けイベントの集客動向やお客様の評価に加え,関連ブログやWebサイトなどのアクセスなどが評価の対象になっているようです。

 こうしたゴールの設定や評価方法の策定は,今後ユーザーエバンジェリストの導入を考える企業にとって大変重要になるでしょう。このインセンティブ設計を間違えると,お客様に不満の残る中途半端なサービスになったり,エバンジェリストのモチベーションが上がらなくなるからです。

 原則としてはCSR(企業の社会的責任)活動の一環と考えて,エバンジェリストには社会的長期的ビジョンで行動するように促した方が,結果的に商品広報や営業にも役立つでしょう。

この先は会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が2020年1月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら