先日,学生団体LabITと,IFIビジネススクールで,ブログやメールを活用したコミュニケーションをテーマに,立て続けに講演する機会がありました。

 優秀な学生と若手社会人と接して今更ながらに驚いたのは,実名でブログ発信をしたり,先輩諸氏に堂々とメールを出したりできない「ビビリな若者たち」が多かったことです。LabITの会でご一緒したグーグル シニアプロダクトマネージャの及川卓也さんも指摘されていた通り,実名でブログ発信をしなければ検索した時にヒットせず,「存在していないのも同じ」なのです。

 そこで,今回は,若者たちが口にした「実名発信できない理由」も紹介しながら,自分を「見える化」する意義と気概について考えます。

グーグル 及川卓也氏 時事通信 湯川鶴章氏 の直言

 学生団体LabITが主催した勉強会のテーマは「メールで引き出すベストコミュニケーション」でした。私は第一部の基調講演を務めましたが,第二部のIT業界キーマンによるパネルディスカッションは,私が聞いていても思わず頷(うなず)くことばかりでした。

 パネルの最中に,グーグルの及川卓也さんが,「この中で,実名でブログを書いている人はどのぐらいいますか?」と会場に向かって質問をしました。すると,50名余りの参加者のうち,手を上げたのはわずか数名だけで驚きました。わざわざ,日曜日にITの勉強会に参加する優秀な学生や社会人をして,この寂しい結果なのです。その後で講師を務めた,ファッション専門のIFIビジネススクールで,非IT系の一流企業から派遣された社会人10数名に同じ質問をした時に,なんと「ゼロ回答」だったのも納得できます。

 及川さんは,その場で「米国では実名でブログ発信するのが常識であり,ネットで検索した時に 名前が見つからないようでは,存在していないに等しい」と厳しい言葉を投げかけました。コーディネーターを務めたLabIT顧問,時事通信 編集委員の湯川鶴章さんも,「初めての相手からメールをもらった時は,まず電子署名を見てブログのURLをチェックする」と補足しました。

 私もまったくお二人と同感でした。そこで,第三部の参加者メールの公開指導の時に「メールの署名に自己紹介代わりのブログが無い人は,どんな人かわからないので会いたくない」と警告を発したのです。

 今や,ネットを使いこなすビジネスパーソンにとって「ブログは名刺代わり」なのです。それが,まだ学生にはわかっていないようでした。

ビビリだけど自意識過剰というジレンマ

 勉強会や懇親会などで出た学生たちの質問は,一言で言えば「ビビリ」の言葉ばかりでした。どうも,実名で情報発信をしたり,知らない人にメールをしたりするのが「怖い」ようなのです。自ら「ビビリ」だと告白して話す若者さえいて驚きました。

 この状況で,細かいビジネスマナーなど気にし始めたら,まさに何もできなくなってしまうでしょう。そこで,懇親会などでは,もっとリラックスして情報発信をすることを勧めました。特に女性には「私が顔写真入りで実名でブログ発信したら,アクセスが殺到したりストーカーが現れて大変なことになってしまう」と思っている人も多いようです。どうやら「ブログに過大な期待と恐れ」を持っているだけではなく,当人は意識していないかもしれませんが「自意識が過剰」なようです。

 私が講師を務める明治大学ブログ起業論でも既に実証済みなのですが,それほど世の中は甘くありません。ネットにはあまりに多くの情報が氾濫しており,今やブロガーは星の数なのです。しかも,現代は,かのマザーテレサが嘆いたように,愛情の反対語=無関心という病がはびこっています。街中で,ちょっとやそっとの「おかしな事」をしたぐらいでは,誰も立ち止まって見てくれないでしょう。

 無名の人間が普通のブログを始めてすぐに大人気となり,衆人環視にさらされるようなことは考えられません。もし,そんなに簡単なら,私もブログのアクセスを増やす苦労などしなくて済むでしょう。

 だから,安心して「実名でブログ発信」をしてみてくださいと呼びかけたのです。もし読者やファンが殺到して「大変なこと」になるようなら,こんなありがたいことはないので,その時に対応を考えましょう。

プライバシーが無いことへの漠たる恐れ

 個人情報保護法のせいでしょうか,どうもプライバシーに対する意識も過剰に見えます。

 ちなみに,私たち企業経営者の「個人情報」は商法の定めによりガラス張りになっています。企業の登記簿謄本や帝国データバンクの企業情報を閲覧すれば,自宅の住所や電話番号まで明らかになってしまいます。もちろん,さまざまな名簿も出回りやすいので,私の元には,あらゆるセールス電話・ダイレクトメール・迷惑メールが届きます。

 しかし,慣れてしまえば,それらの迷惑情報を「気にせずに処理する」ことは決して難しくありません。逆に,個人情報が知れ渡ることで,有用な情報が一般の人たちよりも入りやすくなるメリットを見逃してはなりません。だからこそ,私はメールマガジンやWebサイトなどネット上でメールアドレスを積極的に公開しております。そのため1日に数百通のメールが届き,その7割は迷惑メールです。それでも,新たな縁者に出会い,新たなチャンスに恵まれるメリットの方が大きいのです。

 個人情報を出すリスクより,出さないリスクの方が大きいことを忘れてはなりません。

オープンなコミュニケーションに不慣れ

 また,学生たちは,年令が離れていたり,バックグラウンドが違う達人も交えたオープンなコミュニケーションも苦手なように見えます。これは,地域コミュニティと切り離された,集合住宅の個室で育ち,幼少期に先生と親以外の大人と接する機会が少なくなったことが原因かもしれません。

 私が育った下町では,買い物に行くにも銭湯に行くにも何人もの顔見知りの大人たちと会うので,会話を交わさずに過ごす方が難しかったのです。毎日顔を合わせる人も多いので,単なるあいさつだけでは終わりません。その場その場でアドリブで話さなくてはならないのです。

 そんな幼少期の経験があるからか,今では見知らぬ人に話しかけるのも話しかけられるのも,何の苦にもなりません。そして,その時々の相手の気持ちを察し,間合いを測りながらも,自分の素直な気持ちを伝えることが,知らず知らずのうちにできるようになったのです。

 相手によって,通信手段や話題などを変える「間合い」の取り方がわからないという質問もありました。一言,相手に聞いてみれば,すぐさま解決してしまう問題を,わざわざ難しく考えているのに驚きました。いきなり面と向かって声をかけるのはハードルが高くとも,メールやブログを使えば簡単なはずです。むしろ,コミュニケーションが苦手な人ほど,便利なはずのICTツールを使うのにビビっていては,話になりません。

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