Windows Server 2008が登場しても,認証基盤はActive Directoryだ。いくつかの変更や新機能があるものの,基本的な構造は変わらない。強いて言えば,Windows NT 4.0 BDCをサポートしなくなることが大きな違いだ。ところで,先日,ふと思い立ってActive Directoryの「母ババ問題」を試して,以前と同じ動作であることを確認した。

 Active Directoryは,ユーザー名にひらがなやカタカナを使った場合,濁点や半濁点の有無を区別しない(促音や拗音も区別しない)。これが,通称「母ババ問題」である。「母」と「ばば(婆)」が同一視されるからだ。マスコミに母ババ問題を指摘されたマイクロソフトの成毛真社長(当時)は,「確かにハハ事業部とかババ事業部を区別できないが,それのどこが問題か,そんな事業部はないだろう」と反論したそうだ(正確な発言記録は発見できなかったが,おおむねこういうニュアンスだったと会場にいた人から聞いた)。

 母ババ問題はオブジェクト名だけに発生し,検索用の氏名や部署名には影響しない。組織単位(OU)名に関しては,階層が違えば登録できる。実用上の問題は皆無と言ってよい。あれから7年。Windows Server 2008ベータ3でも母ババ問題が発生しているのは,それほど大きな問題ではなかったという証拠だ。「フランスの首都パリと,インドネシアのリゾート地のバリが区別できないのはまずいだろう」という反論もあるかもしれない。しかし,元々同じ地名は多い。ロンドン随一の歓楽街と,ニューヨークにある芸術家の町は同じソーホーだし,ケンブリッジ大学のあるロンドン郊外の町と,MITやハーバード大学のあるボストン郊外の町は同じケンブリッジだ。日本でも「新川」や「白川」という地名はそこら中にある。濁音と半濁音を区別したら,あいまいさが回避できるわけではない。

 母ババ問題は,元々ヨーロッパ言語にあるアクセント記号(ウムラウトなど)の有無を無視するための仕様だという。日本語で,濁音や半濁音をどうするかは簡単に決められない。おがた(緒方)とおかだ(岡田)は明らかに違う姓であるが「やまざき(山崎)」と「やまさき(山崎)」を同一視しても問題はないだろう。むしろ同一視した方がいいかもしれない。

 母ババ問題を糾弾したのは,IT専門誌よりも一般紙が多かったように記憶している。また,IT専門誌の中でも技術系のサイトよりニュースサイトの方が厳しい調子だった。例えば日経BPのWebサイトは「ああ情けない!--発売直前,Win 2000日本語版独自バグ発生」と見出しを付けた。

 記者のみなさんがActive Directoryの勉強をしている暇のないことは分かるが,せめて専門家の意見を聞いて欲しかった。大方「母とババの区別が付かない」と誰かがあおるのを聞いて,そのまま記事にしたのであろう。

 実は,この問題,その他のバグや不具合を含めて,Windows 2000発売と同時にマイクロソフト自身により一般公開された(マイクロソフトのサポート技術情報「Active Directory で濁音、半濁音、拗音、促音を区別しない」,「西暦以外のカレンダでは年が正しく報告されないことがある」)。そして,その情報を入手したマスコミが「最初から欠陥と分かっている商品を売るつもりか」と迫ったらしい。しかし,欠陥が分かっていながら公開しないよりはよっぽど誠実な態度だと思う。マイクロソフトの人は,今でも「あのときは(マスコミに攻撃されて)ひどい目にあった」とぼやくが,マイクロソフトのパートナー企業の一部からは,「体面を捨てていち早く情報を公開してくれた」と,ずいぶん感謝されたらしい。

 Windows Server 2008の完成は年内が予定されている。一般発売は来年2月頃だろう。Windows 2000のときと同様,迅速な情報公開をお願いしたい。もちろん,問題が発生しないことが理想であるが。