私がユーザー企業に在籍していた時代、こんなことがあった。

 営業の基幹システムの開発をある大手IT企業に発注した。新システムの要件を決め、設計を行い、製造。そしてテスト段階も終盤を迎えた段階で、新システムの支店での営業処理を営業部門のプロジェクト・メンバーに見てもらうことになった。

 情報システム部の担当者やIT企業のSEがガイドをしながら、営業部門のメンバーに新システムで顧客データの登録や受注処理や問い合わせ処理などを順次操作してみてもらう。

 その時のことだ。営業部門の担当者が「○○の処理でこんなケースはどう操作をするのですか」とIT企業のSEにたずねた。するとそのSEは「えっ」と言う変な顔をして答えた。「そんなことがあるのですか? そんな要件は聞いておりません」。営業部門の担当者は「その処理は○○業界の”常識”だよ、その機能がないと営業が困るではないか」と言われた。

 その後色々と双方で揉めたが、結局は営業部門の担当者の指摘を受け入れ、IT企業のSEは連日深夜、作業せざるを得なくなった。

 何故そうなったのか。原因は何か。

 読者の方々がどう思われるは分からないが、ユーザー側から見れば「IT企業のSEは業界やアプリケーションを知らない」、IT企業側から見れば「ユーザーの説明不足、だから要件の変更・追加が起こった」と言う声になりそうだ。

 またあるIT企業では、業界やアプリケーションをほとんど知らないSEがある業務のシステム開発の開発規模を見積もって提案した。商談の末、競合に勝ち受注できた。だがいざシステム開発を始めたらドンドン規模が大きくなって大赤字になってしまった。

 以上2つの例を述べたが、この類の経験を持つIT企業は少なくないはずだ。

 アプリケーション開発プロジェクトの成功の鍵はアプリケーションスキルである。これは言い古された言葉であるが、日本のIT業界を見るとアプリケーション力強化に力を入れているIT企業やSEはそう多くはなさそうだ。

 事実、多くのSEはちょっと時間があればIT技術のマニュアルや開発手法などの解説書を読んだり各種資格取得の勉強をしている。また、多くのSEマネジャや経営者もそれを許している。

 また、経済産業省のITSS(ITスキル標準)もアプリケーションを重要視している様にはとても見えない。

 そんなこんなでアプリケーション力の強化ができていない企業が多い。SEの中には「アプリケーションはお客様が行うもの。我々が知らないのは当然だ」と錯覚しているSEもいる。敢えて言えば日本の多くのIT企業は技術偏重SEの育成傾向が強い。

 IT企業の経営者やSEマネジャやSEは是非次のことを考えてみてほしい。

 基盤構築プロジェクトは新製品がとんでもない代物でない限りまず赤字にならない。また、アプリケーション開発プロジェクトはよく似たアプリケーションを2回目にやれば相当な確率で上手く行く。3回目はまずトラブルもない、生産性も高い。それは何故だろうか。

 前者は得意とするOSやNetworkやサーバーなどのIT技術力をSEが持っているからであり、後者はSEが1回目より2回目、2回目より3回目とアプリケーションに強くなっているからであろう。要は基盤構築だろうがアプリケーション開発だろうがプロジェクトが上手く行くかどうかはSEのスキルに負うところが大きいということだ。

 最近、多くのIT企業で「プロジェクトが赤字になる。プロジェクト管理の強化が必要だ」と言う声を聞く。そのためさかんにPMOの仕組みを導入したり、開発手法やPMBOKなどを教育したり、資格を取得させたりしている。

 それはそれで重要だ。だが、それらがある程度身についている中堅SEやベテランSEは、開発開発手法やPMBOKなどを勉強するより、顧客の業界やアプリケーションを勉強することにエネルギーを使うべきである。

 要はSEのスキルのバランスの問題である。SEは如何にIT技術に強くてもアプリケーションに弱いとアプリケーション開発プロジェクトでは赤字になりかねない。そしてお客様に多大な迷惑をかけることになる。それならアプリケーション開発の仕事は受注しない方がまだましかも知れない。

 このブログを読まれたユーザーの方は、ぜひIT企業向けに忌憚のないコメントを寄せてほしい。きっとそれを読んだIT企業の方々は何かを感じるはずだ。