米AppleのiPhone 3Gが発売され各地に行列ができた今年7月11日。奇しくも同日,世界で初めてとなる携帯機器が日本の家電量販店に並んだ。ウィルコムが発売した「WILLCOM D4」だ。米Intelが開発した小型・省電力のCPUである「Atom(アトム)」を搭載したこの超小型のパソコンは,世界にさきがけ日本で製品化された。

写真1●WILLCOM D4を操作しているところ
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 超小型パソコンは,モバイル・インターネット・デバイス(MID)と呼ばれる。MID第1号機のD4は,5インチの小型ディスプレイでタッチパネルを備える。この小ささでWindows Vistaをプリインストールしている。良くも悪くもパソコンと同じ操作環境だ。タッチパッドもキーボードも付いているが,画面が小さいため操作しづらい(写真1)。

 上着のポケットに入ることを目指して開発されたD4は,パソコンをどこでも使えるようにしたという意味で,パソコンでのユーザー体験,“ユーザー・エクスペリエンス”をがらりと変える可能性をもつ。

 しかしながら,Windowsのようにユーザー・インタフェースが旧型のままでは,その良さも引き出せないのではないだろうか。

写真2●Moblinの操作画面
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 実は,米Intelも,MIDに向けたOSやGUIが必要だとし,オープンソースのプロジェクトで開発を進めている。Moblin(モブリン)と呼ぶ,Linuxベースのソフトウエア群だ。GUIは,iPhoneのようにアイコンが画面に並ぶ「アプリケーション・ランチャ」を搭載し,タッチパネルに適した操作環境になっている(写真2)。ただし,iPhoneのように,2本以上の指を使って操作できる“マルチタッチ”はまだ備えていない。

 Moblinは未完成ではあるが,モバイル・パソコンのOSとしてメジャーな存在になる“芽”がある。それは,誰でもユーザー・インタフェースを作れることだ。事実,Moblinのアプリケーション・ランチャは,単なるFlashコンテンツであり,Windowsのように大規模かつ複雑なものではない。

写真3●iZE WebPlatformの操作画面
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 日本のソフトベンダーであるアイズが開発した「iZE WebPlatform」も,Moblin上で動作するFlashコンテンツ。これは,弧形に配置したアイコンを,ダイアルのように指で回して必要なアイコンを探す操作環境をもつ(写真3)。また,Moblinでは3次元ライブラリも用意し,立体的な操作環境を作れるようになっている。

 もし,Moblin用ユーザー・インタフェースを,さまざまな開発者が自分の好みで作ってインターネットで公開すれば,ユーザーは自由に選んで,着せ替えるように利用できる。Moblinでは,GUIはOSとセットではなく,アプリケーションのようにインストール可能だからだ。OSは,小型・軽量で,プロセスのスケジュール管理をはじめ必要最小限の仕事をきっちりこなす役割に徹することになる。GUIがもたらすユーザー・エクスペリエンスの重要性は増すだろう。

 Moblinでアプリケーションを組み込むことも,比較的簡単に行える。Moblin自体を一から組み立てて使うことも,さほど難しくはない。USBメモリーと,インターネット接続のパソコンさえあれば,ノートPCからUSBメモリーで起動するMoblinを作れるので,興味がある人はぜひ試していただきたい(導入方法は日経Linux2008年9月号特集1に掲載している)。

 Moblinは,“ユーザーが好きなGUIを選べる”環境を与える。そうして多くの人から選ばれたGUIは,開発者に要望が多く集められてさらに進歩していく。米Microsoftも,2009年に投入する次世代のWindowsではマルチタッチを取り入れるなど操作環境を進歩させるようだ。AppleやMicrosoftが資金を投入することで良いGUIができるかもしれないが,既存資産のないオープンソース・プロジェクトのほうが進歩のスピードは勝っているのではないだろうか。思いつかないような突拍子もないユーザー・インタフェースが出てくれば,面白い。