昨日はぷららのWinny遮断について,「どういった手法で実現するのか」(トラフィックの識別が秘密の保護に引っかかるかどうか)に焦点を当てて見てきた。今日は,後回しにしておいた「何の目的でWinnyトラフィックを規制するのか」(判断基準が「検閲」に当たるかどうか)という点について考えていくことにしよう。

トラフィック制限の目的を四つに分類

 プロバイダがWinnyやP2Pファイル共有ソフトのトラフィックを規制する目的は大きく分けて四つに整理できる。

 一つは,P2Pファイル共有ソフトが発生させる大量のトラフィックが他のユーザーの通信に悪影響を与えないようにすることだ。P2Pファイル共有ソフトでやり取りされるファイルには容量が大きいものが多い。しかも,ファイル共有ソフトは同時に複数のファイルをやりとりする機能を備えるので,大量のトラフィックを発生させる元になる。

 こうしたP2Pファイル共有ソフトのトラフィックによってネットワークが混み合うことで,ほかのユーザーのWebアクセスやメールのやりとりに支障を与えるケースが出てきた。この対処方法として,プロバイダがP2Pファイル共有ソフトのトラフィック制限に乗り出したわけだ(詳細は「P2Pファイル共有ソフトのトラフィックについて考えた」を参照)。

 ネットワークが混雑しているかどうかに関係なく,P2Pファイル共有ソフトなどのトラフィックを制限するプロバイダもいる。大量のトラフィックを発生させるユーザーとそうでないユーザーの不公平を是正するという目的だ。これが二つめの目的である。IIJの考えがこれに当たる。

 これらの目的とは別に最近言われ始めたのが,「セキュリティの保護」や「情報漏えいの2次被害の防止」だ。これが三つめの目的である。Winnyを介した情報漏えい事件が相次ぎ,さらにそうした漏えい情報を回収するのが現実的には難しいことから,「それならWinnyを止めてしまえ」という発想といえる。リリースでこの立場を明言しているぷららのほか,Yahoo!BBを運営するソフトバンクBBも,同じ理由でP2Pファイル共有ソフト/Winnyの通信を制限する意向を見せている。

 さらにぷららは「元々著作物を違法にやりとりする目的で開発されたWinnyは“悪”。著作権保護の機能がないP2Pファイル共有ソフトがやりとりする違法なコンテンツのトラフィックをわが社のバックボーンで運ぶ義務はない」(中岡聡・パートナー兼シニアストラテジスト)という立場をとる。ここでWinny通信を遮断する目的として語られているのは,「著作権違反の違法な情報のやり取りを認めない」ということだ。これが四つめの目的である。

電気通信事業者は「通信の適不適」を判断してはいけない

 最初の二つの目的で議論になるのは,特定のアプリケーションのトラフィックから先に制限をかけることの是非だ。Webアクセスのトラフィックではなく,P2Pファイル共有ソフトのトラフィックから先に捨てるという処理に問題はないのだろうか。

 筆者は,これには問題がないと考える。ユーザーの利用環境の観点から,Webアクセスや電子メール,IP電話などに比べて,P2Pファイル共有ソフトのトラフィックを制限することの影響が小さいと見られるからだ(詳細は「インターネットのQoSのあるべき姿」を参照)。大量のトラフィックを消費しているユーザーとそうでないユーザーの不公平を是正するという目的自体も,P2Pファイル共有からトラフィックを規制することの理由となりうる。ただ,この二つの目的が,特定のアプリケーションを名指しして通信を遮断する理由にはならないことは明らかだろう。

 では,「セキュリティの保護」や「情報漏えいの2次被害の防止」,さらには「違法な情報のやりとりを認めない」といった目的はどうか。これは,まさに「検閲の禁止」に抵触する可能性が極めて高い。

 検閲とは,「出版物・映画などの内容を公権力が審査し,不適当と認めるときはその発表などを禁止する行為」(広辞苑)のこと。通信に当てはめると,「通信内容を事業者が審査し,不適当と認めるときはその通信を禁止する行為」となる。

 つまり,あるプロバイダがP2Pファイル共有ソフトの通信を「不適当」だと断定しても,その判断を基に通信を禁止するのは「検閲」と取られることになる。不正な情報のやり取りだけでなく,セキュリティの保護や情報漏えいの2次被害の拡大の防止を目的とするケースも,「Winnyがそうした情報をやり取りするから」という情報の内容を鑑みて判断を下したことになり,同様といえる。つまり,現行の電気通信事業法に照らし合わせると,こうした目的でトラフィックを制御することは認められないと見られる。

ぷららの主張を通すなら,通信事業の枠組みを変える

 このように結論付けると,「Winnyを野放しにしておけというのか!」という憤りを感じる読者がいるかもしれない。「サービスを差別化する意味で,Winny禁止をうたうプロバイダがあってもいいのではないか」という意見もあるだろう(「ぷららの「Winny遮断」はISPの産業革命だ」を参照)。

 仮に,総務省がこうした意見を受け入れ,ぷららのWinny遮断を認めるとどうなるのだろう。また,その場合,電気通信事業法との兼ね合いはどうなるだろうか。

 1社でもWinnyを遮断するプロバイダが登場すると,その影響はインターネット全体に及ぶ恐れがある。インターネットはもともと「ネットワークのネットワーク」の意味。技術的にいうと,AS(autonomous system:自律システム)と呼ばれるネットワーク(プロバイダ)を単位にして,ASが相互につながりあって構成されている。あるプロバイダの「自社バックボーンでWinnyの通信を遮断する」という措置が,ほかのプロバイダに契約しているユーザー間のWinny通信を遮断する可能性もありえるのだ。

 ただ,自社の措置がほかのプロバイダのユーザーにまったく影響を与えないケースもある。Winny遮断を決めたプロバイダが,ASの配下につながるいわゆる「2次プロバイダ」の場合だ。この場合,Winny遮断の影響は,その2次プロバイダのユーザーにしか波及しない。実はぷららネットワークスは,NTTコミュニケーションズのインターネット接続サービス「OCN」の配下につながる2次プロバイダの位置付けになる。

 2次プロバイダの場合,「通信事業者」といっても,その契約ユーザーにWebアクセスや電子メールなどのインターネット関連サービスを提供するだけのサービス会社と捉えることもできる。インターネットを構成する1次プロバイダとは,立場や役割に差がある。総務省が,こうした2次プロバイダを「通信事業者」という枠組みから外す,もしくは,インターネットのバックボーン通信サービスだけを「電気通信事業」と位置付けてユーザー向けのインターネット関連サービスを「電気通信事業」から分離するという荒業に出れば,ぷららが計画しているWinny遮断への道筋が開ける。

 しかしそれでも,プロバイダはWinnyを遮断すべきではないと筆者は考える。

 仮に,総務省がぷららのWinny遮断を認めたとすると,それに追随するプロバイダが必ず登場する。前述のぷららネットワークス中岡氏の発言のように,プロバイダの立場に立てば,Winnyは厄介者以外の何者でもないからだ。ほかのプロバイダもWinny遮断に踏み切った結果,極端なケースでは,日本中のすべてのプロバイダがWinnyを遮断する可能性だってある。そうなると,日本国内からWinnyネットワークは消滅する。

 これがWinnyだけで済めば,もしかしたら望ましい結果をもたらすかもしれない。しかし,プロバイダが特定のアプリケーションをインターネットから排除できるという道筋を作ってしまうことになる。規制が一層強化される危険性をもたらす結果となるだろう。

法律違反のソフトによる通信を仲介し続けてもいいのか?

 ここまで「電気通信事業法」をベースにして考え,筆者なりに「プロバイダはWinnyを遮断すべきではない」という結論を出したが,その一方でWinny問題のもう一つの側面も見逃すわけにはいかないと感じている。その側面とは,Winnyというソフトの開発者が著作権法違反幇助の罪で検挙され,現在係争中であるという事実だ。

 係争中の裁判で,Winnyの開発背景に著作権違反の意図があったと認められた場合,プロバイダがWinnyのトラフィックを放置しておくことも,著作権違反幇助と見なされ,著作権者から訴えられるかもしれない。そうなれば,プロバイダ各社はWinnyのトラフィック遮断に一気に向かうことになるだろう。

 「こうした事態になってもWinnyを遮断すべきではない」と言い切る自信は,筆者にはない。根本的な部分で,「あらゆる通信は遮断されるべきではない」と考える一方で,著作権保護の立場からそれとは矛盾した考えを抱いているのも事実だからだ。この点に関しては,司法の判断とそれに伴うプロバイダの対応を見守っていきたい。

 ここまで長々と,ぷららネットワークスによるWinny遮断措置の是非について書いてきたが,その最終判断を下すのは,メディアではなく総務省の仕事になる。ぷららは,総務省に対してWinnyを遮断するサービスを始める意向を伝えており,総務省の判断を待っている段階だ。許可するにせよしないにせよ,総務省にはぷららに対して示した判断についての明確な判断基準の提示が求められる。

<前編はこちら>