総務省は2010年7月22日、携帯端末向けマルチメディア放送の実現のための開設計画に関する第2回の公開説明会を開催した。V-High帯を利用する全国向け放送の受託放送事業に名乗りを挙げたマルチメディア放送(mmbi、ISDB-Tmm技術を推進)とメディアフロージャパン企画(MediaFLO技術を推進)の幹部が出席した。さらには、mmbi陣営にはNTTドコモの山田隆持代表取締役社長ら、MediaFLO側にはKDDIの小野寺正代表取締役社長ら、それぞれを推す携帯電話事業者の幹部なども参加し、主張を展開した。

写真1●マルチメディア放送(mmbi)側の出席者
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写真2●メディアフロージャパン企画側の出席者
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 第1回の公開説明会によると、mmbiは大規模局を利用することで基地局数を抑え、コストを抑える戦略を説明した。つまり基地局数が125で投資金額は438億円である。一方、MediaFLO側は基地局数が865で961億円である。mmbiの戦略の象徴が関東地区であり、東京スカイツリーから強力な電波を発射することにより、1局で関東平野の広い地区をカバーし、1600万世帯(全国世帯数の1/3)に電波を届けるという考え方である。一方のメディアフロージャパン企画は、首都圏でも複数の基地局を使ってカバーしていく方針で、異なる方向からも電波が届くことで受信品質の一層の向上を図るという考え方である。

 こうした考え方や基地局数の違いは、帯域利用料に反映される。MHz単価は、mmbiが10億円/年に対し、MediaFLO側は契約年数に応じて21億円から29億円/年となっている。mmbiの方が安価なのだが、MediaFLO陣営は「エリアカバーや宅内受信はとても重要。安かろう、悪かろうでは、誰も使わない」と第1回の公開説明会で強く主張した。一般には、仮に伝送品質が同等であれば、投資コストは安いに越したことはない。mmbiの計画に基づく置局計画が、MediaFLO陣営が指摘するように悪いものなのかどうか、は受託放送事業者を選定する上で、大きな焦点の一つであることは間違いない。

 こうした事情からmmbiは、今回の説明会で、設備投資額は安価なものの、伝送品質はしっかりと確保されていると徹底的に主張した。例えば、大規模局の課題の一つとしてSFN混信が指摘されている。ここで言うSFNは、全国の基地局から同じ周波数の同じ信号を発射することを意味する。ある受信地点を想定すると、異なる基地局からの信号が届いた場合に基地局との距離に応じて電波到着に時間差が生じる。アナログ放送の場合はゴーストになるのだが、OFDM技術に基づくデジタル放送では、ガードインターバル(GI)と呼ばれる一定の時間以内であれば正常に受信できる。しかし、異なる基地局からの信号の到着タイミングの差が許容時間(GI)を超えると受信障害の要因になる。大電力の場合は、より遠方からの信号が届くので、到着の時間差が許容時間を超える確率が高くなる。

 mmbiは関東を例に、SFN混信をどの程度抑えられるのか説明した。調整がない場合は8.22%発生するが、遅延調整(送信タイミングの最適化)により1.85%に減らせるという。さらに、基地局の位置や向きの調整など基地局緒元の最適化で0.59%まで減らせるという結果を示した。なお、局数が少ないほど、遅延調整も対象が少なくなり、調整が容易とも主張している。

 さらに、現行サービスのワンセグに対して「室内受信できないという声が多い」というMediaFLO側の指摘に対しては、地上デジタル放送と違うネットワークであることを強調した。ワンセグが、屋外アンテナを前提にしており地上高10mでの受信を前提にしているのに対し、mmbiの開設計画に基づくと、「実質的に受信電界強度が10dB高くなる。ワンセグよりはるかに良好な屋内受信環境が実現される」と主張した。

 次にビル陰の受信問題である。こちらについては、異なるビルからの反射波によってカバーされると主張した。mmbiによると新宿副都心でも90dBマイクロV/m程度と非常に強い受信電界強度が確保されている。東京タワーにおけるmmbiの実験やデジタルラジオの実用化試験放送の電波を利用して実際に、ビル陰で実際にどの程度減衰するのか調査した結果、最も条件が厳しいと思われる六本木ヒルズの真裏で10数dB下がることが確認された。それでも、70dBマイクロV/mを超え、屋内受信も可能と説明した。なお、東京スカイツリーからの出力(ERP)は、102kWという。

 ビル陰について、合わせて新宿の高層ビル街におけるシミュレーションを示した。反射波の効果を加味すると、ほとんど受信できるが、反射1回の効果だけだと一部60dBマイクロV/mまで落ちるケースもある。しかし、反射の回数を3回とするとそうした地域も、VHF帯は反射の効果が大きく10dB上がり、70dBマイクロV/mを確保できることを確認したと主張した。また、実際に電波を出したあと、どうしても受信できるようにしたい場所で受信できない地域が出た場合は「ギャップフィラーで対応する。そのコストはそれほど大きくはない」と述べた。

 こうしたmmbi側の考えに対して、MediaFLO側は、「今回の回線設計の元になっている所要C/Nはもともと6波のマルチパス環境を基にしていて、マルチパスのダブルカウントになっているのではないか」と反論した。mmbi側は、「90dBマイクロV/mはスカイツリーからの直接波のみの数字であり、反射波は含んでいない」と、真っ向から否定した。

 MediaFLO陣営は関連して、「我々は、TU-6という世の中で広く知られている方法でシミュレーションした結果、ビル陰が発生すると見ている」と述べた。なお、関連して「新宿では90dBマイクロV/mという非常に強い受信電界が確保できているとしても、遠方だと厳しい地域もあるのではないか」、「ISDB-Tmmは、歩行環境における受信品質の劣化が激しいのではないか」など指摘した。

 NTTドコモの山田社長は、説明会の冒頭で、マルチメディア放送の成功のポイントを3点挙げた。「充実したコンテンツ、利用しやすい料金水準、対応端末の早期普及」である。料金については、エイベックスと共同で展開する「BeeTV」を例に挙げて、「月額315円という料金で、1年3カ月でユーザー数は130万を超えた」と述べた。その上で、仮にメディアフロージャパン企画が受託放送事業者になった場合に、「我々は、その帯域利用料では事業性は厳しいので、委託放送事業に参入できないと考えている」と断言するとともに、NTTドコモの受信機にMediaFLOのチップを搭載するかどうかは、「実績で事業性が証明されない限りは、受信チップの搭載はできない」と、是々非々で臨む姿勢を示した。

 端末の開発動向についてmmbiは、受信回路の中核部品となるチューナー/デコーダ部について「ISDB-Tの技術が流用でき、複数者で開発対応中」と説明するとともに、シャープやパナソニック、富士通、ルネサスエレクトロニクス、GCT Semiconductorなどの名前を挙げた。その上で、今後運用規定を定めて、2010年度第4四半期にはLSIの量産を予定すると述べた。

 mmbi陣営は、日本の公正取引委員会が米クアルコムに対してCDMA技術に関連して「拘束条件付取引に該当する」として2009年9月に排除措置命令を行ったことを取り上げた。これに対して、クアルコムジャパンの山田純代表取締役社長兼会長は「我々は異議を申し立てており現在審判中である。公正取引委員会の排除命令は確定しているものではない。NAP条項は、各メーカーとの個別の交渉をフェアアンドリーズナブルに行った末に残っているケースもある」として、クアルコム陣営としては違法行為は全くないという立場であることを説明した。その上で、MediaFLO技術はCDMA技術とは別であると指摘するとともに「携帯電話機メーカーは追加のロイヤルティ支払いは不要で利用できることは以前から述べてきたとおり。ライセンス条項は各メーカーとの個別交渉である」とした。個別交渉の結果NAP条項が入るケースはあり得るのかというNTTドコモ側の問いに対しては、「個別交渉の結果、当事者間が合意すればありうると私は思っている」と山田社長は述べた。

 説明会の最後に、KDDIの小野寺社長は、「委託放送事業のビジネスモデルをどうするのかが、マルチメディア放送にとって最大の課題である。ここの自由度がどうなるかによってビジネスが変わる。例えば、1時間を10分ずつ区切って帯域を利用できるとすれば6社がコンテンツ・プロバイダになれる。しかし、それぞれ委託放送事業者だということになれば、委託放送事業者への規制が厳しく事業化は難しいと思う。誰かがまとめてプロバイダからコンテンツを受け取り委託放送事業者としてサービスを提供するということを認めて欲しい。自由度を増やすように総務省には是非検討してほしい」と述べた。

■変更履歴
「実質的に受信電界強度が10dBマイクロV/m高くなる」としていましたが,「実質的に受信電界強度が10dB高くなる」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2010/07/30 21:40]