スターバックスコーヒー店舗やインターネット・カフェを併設する新生銀行の本店
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 「ベターバンキング」をキーワードに経営再建にまい進してきた新生銀行(旧・日本長期信用銀行)は4月、邦銀で初めて「CLO(チーフ・ラーニング・オフィサー、最高学習責任者)」という役職を設けた。「新生銀行は学ぶ組織である」というブランド・イメージを名実ともに築くため、CLOが各種の人材開発・組織開発プログラムを作っていく。同職には、組織開発コンサルタントの経験があるトマス・ペダーセン氏が就任した。

 日本ではCLOという役職は、銀行以外の業種でもなじみが薄い。CLOとして有名なのは、2001年春に米ゼネラル・エレクトリック(GE)から米ゴールドマン・サックス・グループに移ったスティーブ・カー氏だ。同氏は、ニューヨーク州クロトンビルにある、GEの有名な「コーポレート・リーダーシップ研究所(現ジョン・F・ウェルチ・リーダーシップ開発研究所)」の責任者だった。新生銀行が目指す「学ぶ組織」のイメージは、優秀なリーダー人材輩出の宝庫として知られるGEにある。

 日本企業の場合、CLOの代わりにCHO(チーフ・ヒューマンリソーシズ・オフィサー)を置くケースが多い。ペダーセン氏はCLOとCHOの違いをこう説明する。「CLOは、人材開発だけではなく組織開発まで深く踏み込む。経営トップと直接意見を交わしながら、3~5年先の会社の在るべき姿を描き、それに合致した人材作りや組織作りを目指す。その代わり、採用活動や就業規則の策定、労使交渉などは人事部門に委ねる」

 つまり、CHOは「人事(人材配置)」「労務」「教育(人材開発・組織開発)」のすべてを担当するのに対し、CLOは「教育」に専念する。これによって、顧客や株主にとって価値のある経営戦略と密接に結びついた教育プログラムを作りやすくなる。このほか、次世代リーダーを育成する責任がCLOにあると、きちんと明確化できるメリットもある。

 新生銀行は、ペダーセンCLOをサポートする部署として「CLO室」も設置。約10人を配した。CLOとCLO室は、経営戦略に直結した人材・組織開発はもちろん、3月に定めた新しい企業理念「Shinsei Vision and Values」の全職員への浸透を徹底させる役割も担う。一人ひとりが経営戦略を深く理解し、自身の能力向上に結びつけるには、経営理念の浸透が欠かせないと判断した。

成長軌道に乗り、第2ステージへ

 長銀が米リップルウッド・ホールディングスに譲渡され、新銀行として再スタートを切ったのは2000年3月。初代社長の八城政基氏が率いる新経営陣の下で業績は急伸し、2004年2月に再上場を果した。手数料0円のATM(現金自動預け払い機)、32色から選べるカラフルなキャッシュカード、センスのいいリビングのような店内など、既存の銀行にない斬新なサービスを次々と打ち出してきた。すでに成長軌道に乗ったと判断し、2005年6月に八城社長が会長に、ティエリー・ポルテ氏が社長に就任。新経営体制への移行も終えている。

 だが、実は新生銀行がCLO職を設けた背景には、短期間で業績を急伸できたがゆえに生じた組織のひずみがある。「リテール部門」「インスティテューショナルバンキング部門」など、この5年で部門ごとに業務範囲が急拡大したものの、部分最適の傾向が強くなり、全社戦略の推進時や本社業務の実施時にスピードや効率が損なわれる面が目立ってきたのだ。

 例えば、部門ごとに多数の中途採用者を抱えるようになったのだが、人材開発や人事考課など制度面で公平性を担保する認識が欠けていた。再上場を目指したここ数年は業績を何よりも重視し、それ以外の多くの課題に目をつぶってきたからだ。

 ポルテ新社長は、新生銀行が今後も継続的に成長していくためには、このまま手をこまねいていてはいけないと危機感を抱いた。競合他行も業績は回復基調にある。そこで約1年前から、「もっと全社的な視点を踏まえながら、いかに良い人材を採り、いかに育て、いかにして当行で働き続けてもらえるようにしたらいいかを、徹底的に話し合ってきた」(ペダーセンCLO)。

 ペダーセンCLOとCLO室は、4月に実施する新人研修を皮切りに、新しい教育プログラムを順次作成。採用からリーダー育成までの人材育成プロジェクトの効果を測定する方法も確立する。将来的には、人材開発や組織開発のための教育プログラムを提携先の地方銀行などにサービスとして提供する考えだ。

 またすでに、米国系の大手証券会社であるゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチの3社の日本法人に、高度な金融商品を学ぶ教育プログラムを提供している。ペダーセンCLOは、「米国に比べると日本には高度な金融商品をうまく顧客に提案できる人材が少ない。業界の底上げに貢献して、日本市場の活性化を図りたい」とその狙いを説明する。

■変更履歴
 本文5段落目と10段落目で,CLOをサポートする部署名を当初「CLOスタッフ室」と記述していましたが,これを「CLO室」に訂正しました。[2006/04/27 16:50]