写真1 放送事業者が共同で「CEATEC JAPAN 2005」に出展したブース。実際にワンセグ・サービスを体感できるとあって,多くの来場者を集めた。
写真1 放送事業者が共同で「CEATEC JAPAN 2005」に出展したブース。実際にワンセグ・サービスを体感できるとあって,多くの来場者を集めた。
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写真2 ワンセグの基本画面。上部にデジタル放送のテレビ画面が表示され,下部にデータ放送やテレビ局の管理下にある通信コンテンツが表示される。テレビ局の管理下にない通信コンテンツは,テレビ画面と混在して表示できない。
写真2 ワンセグの基本画面。上部にデジタル放送のテレビ画面が表示され,下部にデータ放送やテレビ局の管理下にある通信コンテンツが表示される。テレビ局の管理下にない通信コンテンツは,テレビ画面と混在して表示できない。
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 手のひらの中に収まる地上デジタル・テレビが「通信と放送の融合」の一つの形を具現化しようとしている。その一方で,「通信と放送の融合」の真の難しさもさらけ出している。

 携帯端末向けの地上デジタル放送「ワンセグ」が,2006年4月1日に始まることが決まった。それに合わせて,NTTドコモとKDDIがワンセグに対応した携帯電話機を発表。10月開催のエレクトロニクス関連の展示会「CEATEC JAPAN 2005」では,これらの端末展示に加えて放送事業者も共同でブースをかまえた。NHK(日本放送協会)の橋本元一会長は,基調講演の中で「ワンセグは放送の究極の姿」とまで言い切った。

 CEATECでは,アナログ放送以上にクリアな画質や,データ放送や通信サービスとの連携など,ワンセグならではのメリットを来場者にアピールしていた。しかしその実態をつぶさに見てみると「テレビ画面と,テレビ局の管理下にない通信コンテンツを混在して表示できない」「テレビを見ながらのメールは実現困難」など,思った以上に制約が多いことも公の場で改めて判明した。

小さな画面の中で両者の文化がぶつかり合う

 そもそもの発端は2004年9月に電波産業会(ARIB)が決定したワンセグの運用規定。ここでワンセグに関して,受信中のテレビ画面と,テレビ局の管理下にない通信コンテンツを同一画面上に混在して表示しないことが決まった。

 その根底には,放送事業者と通信事業者のコンテンツに対する考え方の違いがある。放送事業者は送出するコンテンツの内容に対して責任を負うが,通信事業者は送信する情報の中身には関与できない。携帯端末の小さな画面の中では利用者は放送コンテンツと通信コンテンツを一体化して見てしまうが,その内容に関して放送事業者が責任を負えなくなるからだ。

 また,放送中のCMなどと通信コンテンツとのバッティングを避けることも念頭にあった。一つの端末の中で放送コンテンツと通信コンテンツが混在することで起こる両者の文化の違いを,図らずもワンセグは浮かび上がらせてしまった。

 混在表示ができないため,「iモード」や「EZWeb」などを通じて通信事業者が提供するコンテンツを表示するときは,テレビ画面が消えて全画面表示となる。ユーザーにとってみれば,テレビを見ながら関連する様々な情報を調べたいときもあるだろう。しかしワンセグではそれができない。

 ARIBの運用規定では,メールは例外としてテレビ画面との混在表示を認めている。しかし実際にはそれも実現は難しそうだ。「DMやスパム・メールと放送番組がバッティングする恐れがある」(ある通信事業者)。KDDIではアドレス帳に登録した相手のメールのみを表示する方法を検討しているという。しかし「メール・マガジンを利用者がアドレス帳に登録するのか」など課題は多い。NTTドコモのワンセグ対応携帯電話機「P901iTV」では,割り切ってメールの混在表示ができないようにしている。

テレビ局主導のサービスに諦め顔の通信事業者も

 こうした放送事業者の論理を尊重した結果,ワンセグは通信事業者にとってそれほど魅力的なサービスではなくなりつつある。テレビ視聴にユーザーの時間を取られて,肝心の通信サービスの利用が減る恐れがあるからだ。

 ワンセグのデータ放送から通信コンテンツに誘導できるデジタル放送ならではのメリットも,結局のところ放送事業者がどれだけ通信コンテンツにリンクを張るかにかかっている。ある通信事業者の担当者は,「ワンセグは,結局テレビ局主導のサービス」と諦めに近い表情すら見せる。

 来年4月に手探り状態で始まるワンセグ。放送と通信の軋轢(あつれき)を端に発する厳しすぎる運用規定は,両者の溝を深めるばかりでなく,ユーザーの利便性も損なう恐れがある。「通信と放送の融合」が声高に叫ばれる今だからこそ,ユーザーを第1に考えたサービスを実現してほしい。

(堀越 功=日経コミュニケーション

【集中連載 覇権争い激化!通信と放送の融合】の特集ページはこちらをご覧下さい。

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●(1) テレビ局のVODサービスはなぜもの足りない?(10月24日)
●(2) 地上デジタル放送のIP再送信,総務省の真意は?(10月25日)
●(3) 携帯向け放送「ワンセグ」に通信事業者は気乗り薄?(10月26日)
●(4) コンテンツ・プロバイダへ転身,USENはGyaOで主役に躍り出る?(10月27日)
●(5) 日本はVODでも音楽配信と同様の失敗を繰り返すのか?(10月28日)