プロジェクトに成功する企業と失敗する企業の二極化が進んでいる――。
本誌が5年ぶりに実施したシステム開発プロジェクトの実態調査から、
こうした現状が浮かび上がってきた。
全体の成功率は31.1%で5年前より4.4ポイント上昇。
しかし、率以上に変化したのはその内容だ。
成功企業と失敗企業の明暗を大きく分けたのは「測る」ことだった。
併せて調査したシステム部門の実態と共に、最新の分析結果を報告する。


(矢口 竜太郎、吉田 洋平)

◆測る企業は成功率が2倍に
◆費用追加が増え、品質は向上
◆これがシステム部門の平均値


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 本誌は5年ぶりに、ユーザー企業の情報システム部門を対象としたシステム開発プロジェクトの実態調査を敢行した。第1回は2003年。当時は国内初の調査である上に、「システム開発プロジェクトの成功率は26.7%」という数字が業界の注目を集めた。プロジェクトの実に4分の3が失敗に終わっているという衝撃の結果だった。

 今回は成功率の推移だけでなく、システム開発の実態がこの5年間でどのように変化したのかに焦点を当てる。調査は大手から中堅・中小に至るまで合計8800の企業を対象に実施した。

 調査対象とするプロジェクトは2007年度あるいは2008年度に稼働、もしくは稼働予定のプロジェクトとした。条件に当てはまるプロジェクトが複数ある場合は、規模が最も大きい代表的なプロジェクトについてのみ回答してもらった。プロジェクトを1社につき一つに絞ったのは、それぞれの企業が想定する「最も力を入れた(入れている)、直近の案件」を明らかにし、その傾向を知るためだ。

 経年変化を見るため、成功率の算出方法や質問項目については基本的に前回調査を踏襲した。ここでいうプロジェクトの成功率とは「Q(Quality)、C(Cost)、D(Delivery)」、すなわちシステムの「品質」「コスト」「納期」の3点について当初の計画を順守できたかどうかを尋ね、その回答を基に算出した値となる。

 編集部では、品質、コスト、納期の3基準すべてで「当初計画通りの成果」を収めたプロジェクトだけを「成功」と定義した。やや厳しいと見る向きもあるかもしれない。確かにプロジェクトの成否をどこで判断するかは難しい問題だが、本誌ではこの3基準を満たしていなければ確実に成功とは言い切れないと考え、このような指標を設定した。

 この算出方法から有効回答の814件を分析したところ、プロジェクトの成功率は31.1%だった。前回の26.7%より増加したとはいえ、四捨五入すればどちらも3割。著しい変化はなかったと言っていいだろう。

 この結果は意外だった。編集部では、5年間の状況の変化がプロジェクトの成功率向上に何らかの寄与をしているのではないかと予想していたためだ。本誌でも報道してきたように、システム開発を成功に導くための各種手法の登場、ユーザーとベンダーの関係の変化、市場環境の悪化によるコスト管理の厳格化など、この5年でプロジェクトの成功率に影響するような出来事は多々あったはずだ。

 しかし、それらは成功率を大きく変化させる要因にはなり得なかった。実際、大手企業のシステム構築案件を数多く手がける札幌スパークルの桑原里恵システムコーディネーターによると「日々ユーザーとかかわっている印象からすると、成功率3割というのは実感と相違がない値だ」という。ならばこの5年間の試みは無意味だったのだろうか。

「測る企業」が2倍以上に

 ところが成功率以外を分析してみると、前回とは格段に異なる点が見えてきた。プロジェクトを定量的に管理する企業が急増しているのだ。

 「スケジュールの進捗を定量的に把握できる管理手法を導入している」「コストを定量的に把握できる管理手法を導入している」「成果物(ソフトやドキュメントなど)を定量的に把握できる管理手法を導入している」と回答した企業の比率は、前回調査の2倍以上に達した。

 進捗を測る企業は12.8%から29.9%に伸びた。実に3割もの企業が定量的に管理しているわけだ。コストは5.1%から14.8%に増加。進捗ほど割合は高くないものの、前回と比べ3倍近くの企業が定量管理している結果となった。成果物も8.7%から18.0%へ9.3ポイント上乗せした。

 調査ではプロジェクトの開発体制について、先のQCDの定量管理に関する3つの質問に加え、「社員のプロジェクトマネジャがいるか」「RFP(提案依頼書)を作成してベンダーを選んでいるか」など計11の回答項目を設けている。だが、回答率に顕著な上昇がみられたのはQCDの定量管理に関する項目だった。

 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の細川泰秀専務理事は「ここ数年、ユーザー企業の間で定量的にプロジェクトを管理しようという機運が高まっていることは実感していた」と、この結果に納得する。

 経済産業省の奥家敏和情報処理振興課 総括補佐は「JUASがソフトウェアメトリクスを調査し始めたのと情報処理推進機構(IPA)がソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)を設立したのが2004年。この5年間に実施された全国的な定量化の取り組みが影響しているのではないか」と語る。

 経営情報学会会長を務める根来龍之早稲田大学IT戦略研究所所長は「中小企業からの回答が多いことを考えると、すべての企業が自主的に定量管理を実施し始めたとは考えにくい。ベンダーが不採算案件を減らすための自助努力の一環で、定量管理の結果をユーザー企業に開示し始めていることが理由ではないか」と推測する。「ベンダーとしては、追加作業が発生した際の対価を請求しやすくするために実施した。ところが結果的に、ユーザー企業がプロジェクトを定量的に管理する助けになっている」(同)とみる。

何もしない企業との差は歴然

 調査データからは、定量管理手法の導入とプロジェクト成功率の間には強い相関があることもわかった。QCDを定量管理する手法のうち、どれか一つでも導入した場合をみてみよう。その成功率は45.6%。平均成功率より実に15ポイント近く上がっている()。

図●成功率と定量管理手法の相関
何らかの定量管理手法を導入している企業の成功率は、定量管理をしない企業の2倍程度になる
有効回答は212件
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 調査では、具体的にどのような定量管理手法を用いているかは聞いていない。つまり、「定量管理をしている」と回答した企業には、非常に大掛かりな取り組みをしているケースと、ほんのひと手間かけただけというケースのどちらも含まれていることになる。にもかかわらず、成功率は平均と比較して飛躍的に高まるのだ。

 SECの所長を務める鶴保征城氏は「胸を張って『定量管理を実施している』と回答した企業は当然、『プロジェクトは定量管理すべきである』という考え方だろう。そうした意識が高いことも結果に表れているのではないか」と話す。

 反対に定量管理を一切していない企業の成功率は24.3%と、平均より7ポイント近く低い。何らかの定量管理手法を導入している企業と比べると、約半分にまで落ち込むことになる。


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出典:2008年12月1日号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。