「心の病にかかったときの勤務先や上司の対応は満足のいくもの」こう感じた人はわずか18.3%--本誌の調査で明らかになった数字だ。心の病を患うIT技術者が増え続ける2大理由は、仕事の困難化・長期化とコミュニケーション・ロスだ。それらを排除すべく、先進企業は対応し始めている。上司および組織は何をすべきかを探った。


(渡辺 一正、小原 忍)


◆【現実】心の病の損失額は2億円
◆【発見】つらさを知ってほしい
◆【予防】原因を排除し生産性向上へ
◆【支援】放置はNG、適度なストレスを
◆【生の声】まるで腫れ物に触るようだった


【無料】サンプル版を差し上げます 本記事は日経コンピュータ5月1日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集1」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。 なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 同僚が心の病にかかったときの勤務先や上司の対応は満足のいくものだった──。こう感じた人はわずか18.3%。ITの総合サイトITpro上で実施した「心の病に関する調査」の結果だ(図1)。

図1●「心の病が発生した後の、勤務先(上司)の対応は満足いくものでしたか」
図1●「心の病が発生した後の、勤務先(上司)の対応は満足いくものでしたか」

 3月28日から7日間行った同調査では開始3日で約1300人が回答するなど、心の病に対するIT関係者の関心は高い。最終回答数1421の68.9%が「勤務先で心の病にかかっている人がいる」と答え、心の病が身近になっていることがうかがえる。しかも、数年前からIT業界における心の病が取りざたされ、少なくない企業が対策に乗り出しているにもかかわらず、冒頭のようなありさまだ。企業や上司は、これまで以上に社員や部下のメンタルヘルスに気を配ることが求められている。

 企業の対応を後押しする別の要因もある。昨年、うつ病をはじめとした心の病がもとで仕事ができなくなったり自殺したりした案件で、労働基準監督署が認定しなかったものが裁判所で覆るケースが出てきたのだ。例えば昨年6月に福岡地方裁判所は、大手ITベンダー・グループのSEが自殺したのは過労が原因と認めた。自殺直前に11日間連続で勤務し、納期が迫るなか逃げ場のない出張先でバグ特定や修正など経験のない困難な作業を続けたことが、うつ病発症につながったとした。

 ただ、部下のメンタルヘルスに気を配れと言われても、何をすればいいか分からない。本特集では、早期発見・対処、予防、復職支援の観点から、今何をすべきかを探った。

仕事の困難化と人間関係が発端

 「心の病に関する調査」から、心の病に至った原因は大きく2種類に集約できることが分かる。まずは仕事の困難化・長期化。困難化を原因として挙げたのが、自分の場合で63.5%、同僚の場合で58.3%。ともにトップだ(図2)。長時間残業もそれぞれ50.6%、45.2%と多い。長時間残業は人員の削減で仕事量そのものが増えているという面もあるだろう。実際、自由意見には「設計から開発、運用、保守まで担当し、休日の呼び出しは日常茶飯事。負荷が増え、離職と中途採用の入れ替わりが発生し、品質がさらに下がり、クレームへとつながる悪循環。こんななかで自分が病気にならないことが不思議です」(ITベンダー、PM、30歳代男性)という声があった。

図2●同僚やあなたが「心の病」になった理由は何ですか(複数回答)
図2●同僚やあなたが「心の病」になった理由は何ですか(複数回答)

 もう1つの問題点は、コミュニケーション・ロスだ。職場や上司との間の人間関係が原因との回答が多かった。「部下の仕事状況を把握しない、自分の都合を押し付ける、気分によって対応が変わる、などの上司が多い。その不満が大きく、退職する人も多い」(ITベンダー、保守、30歳代男性)。同様な意見が多数寄せられた。

 こうした状態を専門家はどう見るのか。メンタル・トレーニングの講演などで活躍するMJコンテスの田中ウルヴェ京取締役は、「IT技術者は間違いが許されない環境にある。自分のミスの影響が大きく、緊張ストレスが高まってヘトヘトになっている」と指摘する。

 「技術だけではなく、ISO、セキュリティ、内部統制などに追われる。部下の心のケアに神経を使い、自分のストレスがたまる。いつか、自分が壊れるのではないか不安だ」(ITベンダー、管理職、30歳代男性)──管理職自身もストレスにさらされている。京都文教大学で教授を務める神田東クリニックの島悟院長は、「プロジェクト・マネジャやプロジェクト・リーダーといった会社の要になる人たちのストレスが非常に強い。その上司がケアしなければ企業にとって大損害になり得る」と警鐘を鳴らす。“うつ病になる部下”の範囲は拡大する一方だ。

人材難のIT業界こそ再活性がカギ

 「人材を確保するため、心の病の人をいかに復職させるかに注目が集まっている」。社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所の今井保次副所長は、こう指摘する。IT業界は「3K職場」と揶揄(やゆ)され、新卒や中途の採用が難しくなった結果だという。

 企業向けメンタルヘルス対策サービスを提供しているアドバンテッジリスクマネジメント(ARM)の鳥越慎二社長も、「復職支援プログラムを充実してほしいという要望が増えている」と証言する。ただ、現状では注目が集まっているという段階で、心の病に的を絞った具体的な制度を取り入れた企業はまだ少数派だ。「心の病に関する調査」でも、「復職支援制度が十分でない」という意見が数多く寄せられた。

 そのようななか、システム・インテグレータであるシーエーシー(CAC)は06年、独自に復職プログラムを策定。復職率上昇とともにうつ病発症率低下という効果を得始めている。「まだ手探りの状態だが、会社側が積極的に乗り出す姿勢が伝わった結果だと思う」と人事部の宮﨑弦一氏は話す。復職支援制度を充実したことで、うつ病で倒れても会社は見捨てない、元の職場に戻れるという安心感が与えられたからだというのだ。

 このCACの成功事例を参考にしようと足を運ぶ人事・労務担当者は多いという。「メンタルヘルス対策の見学に来た人が最初に聞くのが復職支援制度について。興味の対象がそこに集まっている」と宮﨑氏は語る。


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出典:2008年5月1日号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。