解決法:運用する目的を共有するため、具体例を挙げながら確認していこう

 向井は短期間でウェブページを立ち上げ、いいね!ボタンを合計240回も押してもらいました。相応のファンを獲得していることがうかがえます。オーナーが期待する店舗への送客につながる可能性は秘めています。しかし向井は、送客というオーナーが期待する成果を全く意識していませんでした。

 この問題の核心は、向井が「集客につながるコミュニケーションを顧客と取ってほしい」というオーナーの狙いを汲み取ろうとしていなかったことと、オーナーが「部下だから分かっているだろう」と思い込んで、目的を伝えていなかったことです。こうして目指すべき成果の認識がずれ、向井は投稿を続けることや、いいね!ボタンが押された数を増やすことを目的化してしまっていたのです。

 筆者が支援した顧客企業でも、いいね!ボタンを押された数を増やすことばかり躍起になっていた例があります。この企業でもSNSという手段にばかり焦点が当たっていて、目的や達成すべき目標を関係者で共有できていませんでした。目的を共有しないままソーシャルメディアを活用しても、運営の負担ばかりが増え、集客などの具体的な効果を得られなくなってしまいます。

 従って、あなたの立場が要求する側であれ、される側であれ、「そもそもなぜその施策に取り組む必要があるのか」を考え、相手と共有することを心がけましょう。要求する側が目的を伝えようとし、される側が目的を汲み取ろうとしなくては何事も始まりません。行動を取る目的を共有できれば、取り組み方も自ずと変わってきます。

 もっとも、「目的を共有したくても、その伝え方や聞き方が難しいんだ」と考える方がいらっしゃることでしょう。例えばあなたの上司が「言わずもがな」と思い込んでいて、目的を伝えてこないようなケースも十分に考えられます。このような場合に、「どうしてこの施策を実行するのでしょうか」「どのような成果を求めているのですか」といった聞き方では、角が立ってしまう恐れがあります。

 しかしそうしたリスクを回避しつつ相手の意図を引き出していくことは十分に可能です。要求する側の期待を推察し、具体例を挙げながら確認していけばよいのです。向井のやり取りを見ていきましょう。

 失敗を反省した向井は、オーナーのSNSに対する狙いを確かめるため、こう尋ねました。「SNSでファンと常日頃コミュニケーションをはかり、店舗を思い出してもらう機会を創る。その中から、来店してもらう顧客が出るようにすればよろしいでしょうか」

「そうだ。店舗の売り上げが伸びるからな。それにSNSはファンになってくれた顧客だけでなく、その友人にも情報が伝わるそうじゃないか。それなら新しい顧客を開拓することにもつながる。顧客が来たくなるように工夫したコミュニケーションを取ってほしい」

 このように目的を共有できれば、SNSでどのようなメッセージを発信すべきかや、どのような指標を目標に設定すればよいのかも分かりやすくなります。そこで向井はホワイトボードに幾つかの指標を書き出しました。

 「目的を踏まえると、目標とすべき指標はいいね!ボタンを押してくれた利用者の人数と、その利用者の友人の数です。これらの数が増えれば、縁グループのサービスの価値を伝える土壌ができたといえます。さらに当社の投稿を話題にしている人数や、クチコミ人数も把握すべきです。前者はリピーターの醸成、後者は新しい顧客の開拓につながると考えられます。これらの指標の数字が増えてきたら優待情報を発信し、店舗への送客を図ります」

 向井の説明を受けたオーナーは、満足そうにうなずきました。このようなコミュニケーションを通じて、縁グループのオーナーと向井はSNSを運営する目的と、達成すべき目標を具体化。それに応じて投稿内容の見直しを図っていくことができました。

 次回は引き続きSNS「Enishiページ」を巡るやり取りを題材にしつつ、相手の心を動かすコミュニケーションの3つ目のポイント、相手に当事者意識を持ってもらう“自分事化”のお話を紹介します。

工藤 浩志(くどう ひろし)
1960年生まれ。システム・インテグレーション会社および大手外資系コンサルティング・ファームを経て、2009年よりシナジーマーケティングに在籍。超上流工程の要件開発方法論を確立。2008年12月、「ITコンサルタントのための要件開発入門」(技術評論社)を出版。要件開発方法論に基づいたサービス・サイエンスおよびコミュニケーション戦略フレームワークの確立を目指す。

■シナジーマーケティングについて
2005年6月設立。CRM(顧客関係管理)関連サービスの提供から、顧客とのコミュニケーション戦略の構築支援まで、企業のCRM活動全般を支援している。提供する主なサービスは、クラウド型CRMシステム「Synergy!360」など。
http://www.synergy-marketing.co.jp/