私は野菜が嫌いだ。40歳を目前に控えた今でも、周囲から「病気にならないために、野菜を食べなさい」と指導される。その度に私は「野菜が好きな人は、野菜が嫌いな人の気持ちは分からない」と心の中でつぶやくものだ。では、野菜ではなく「数学」だったらどうなのか。数学が好きな人は、数学が嫌いな人の気持ちは分からないのだろうか――。「実践!ビジネス数学 Lite」の企画・編集では、この問題に直面した。
 
 皆さんは「数学検定」をご存知だろうか。日本漢字能力検定協会の「漢検」や、日本英語検定協会の「英検」のような検定試験の数学版である。こちらは日本数学検定協会が実施しており、中学生や高校生など毎年、約30万人(2011年度)が受検している。数学検定にはビジネスパーソン向けの検定もあり、それが「ビジネス数学検定」である。在庫管理や販売管理、マーケティングといった、様々なビジネスシーンで求められる数学スキルを検定する。

 検定は難易度に応じて、マネジメントクラスの「1級」、リーダークラスの「2級」、エントリークラスの「Lite」の三つに区分されている。今回、編集を担当した「実践!ビジネス数学 Lite」は文字通り、「ビジネス数学って何だろう?勉強してみようかな」と思う初心者向けの書籍である。全40問の問題と解答、解説で構成されている。

 さて、話題を「野菜嫌いと数学嫌い」に戻そう。実はこの書籍の編集作業では、私はわずかな苦痛も感じなかった。「飲食店の客単価はどう変わった?」「業界再編でR社は何位に?」「製品Gの最適価格は?」「製品Zの納期はいつ?」といった問題を楽しみながら解き、編集作業を進めていった。なぜなら私は、数学が「好き」だからである。そして編集作業が中盤に差し掛かったころ、冒頭の問題に直面した。表紙のデザインや帯の宣伝文を作る段階になり、「数学嫌いのビジネスパーソンに手に取ってもらうには、どうすればよいか」が分からなくなったのだ。

 書籍に掲載している問題や解説は、日本数学検定協会の著者陣が「数学の初心者でも楽しめるように」と工夫して執筆・構成されている。一方、表紙デザインや帯の文字を決めるのは編集者の仕事だ。ところが、考えれば考えるほど、私は「本当に数学が嫌いなビジネスパーソンの気持ち」が分からくなっていった。やはり、野菜が好きな人は野菜が嫌いな人の気持ちは分からないように、数学が好きな人は数学が嫌いな人の気持ちは分からないのかもしれない。

 これは困った。どんなに数学を駆使しても、この問題は解けない。やむなく私は、数学が嫌い(と私が勝手に思っている)同僚や後輩に意見を求めながら、表紙のデザインや帯のテキストを決めていった。その結果、どうなったのか。帯には次の言葉を載せている。“残念な人”にならないために、数学的思考力を鍛える――。私は「病気にならないために、野菜を食べなさい」という人の気持ちが、少しだけ分かったような気がする。だから言うわけではないが、数学が嫌いなビジネスパーソンにこそ、本書「実践!ビジネス数学 Lite」を手に取っていただきたい。

実践!ビジネス数学 Lite

実践!ビジネス数学 Lite
日経BP社発行
日本数学検定協会著
1050円(税込)