写真1●原則として全従業員が参加する「満足創造研修」の様子。
感動体験ムービーを見て気分が盛り上がった後、顧客にどんな満足を提供できるかをグループ討議する
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 ヤマト運輸はサービス品質向上や従業員満足度向上のために、全従業員を対象に毎年実施している「満足創造研修」を強化している。全国の各支店に必ず1人いる「教育専任者」がファシリテーターを務める満足創造研修に、2009年春からセールスドライバーたちの感動体験を集めた「感動体験ムービー」の上映会を追加した。

 この8月には荷物の受け付け業務やコールセンターのスタッフの感動体験を集めた「事務・作業編」の感動体験ムービーも作成し、満足創造研修の冒頭で、参加者全員で鑑賞し始めた。従業員の感動体験を写真と短い言葉でつづったムービーを、経営理念を確認する研修の最初に見ることで、全従業員が原則として1年に一度は参加する研修の場での気持ちを高める。そのうえで、自分たちが顧客や仲間にどんな満足を提供できるのかを、研修での議論を通じて具体的な行動計画に落とし込んでいく。

ヤマト運輸の感動体験ムービー。
働くスタッフの写真と一緒に、「和歌山のいなかから出てきて、ヤマトに入り15年。 私はセンター員からなぜか『はんちょう』と呼ばれています。数年前、父が他界したとき、動揺する私に『はんちょう、後は僕たちにまかせて帰ってください』とやさしく言ってもらいました。私が体調不良のときには、『はんちょう、僕、仕事したいから。。。』と嘘と分かる台詞で休みを代わってくれました。この仲間達と出会えたことが私にとって一番の『感動』です。」などといった言葉を表示する
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 ヤマト運輸には「ヤマトは我なり」という全員経営をうたう社訓がある。2008年4月に始めた満足創造研修は全員経営の理念を、入れ替わりの激しい従業員に毎年浸透させていくことが狙いの1つになっている。ヤマトは我なりとは「自分自身=ヤマト、という意識を持ちなさい」という意味の言葉だが、それを言葉だけの説明で従業員に浸透させるのは難しい。そこで2008年秋に全国のセールスドライバーから感動体験のエピソードを集め、「働く姿がヤマトの一番の商品であることを、ムービー形式で従業員に伝えて経営理念を確認してもらうことにした」(人事総務部人材育成課の大和亮介係長)。それが2009年春に完成したセールスドライバーの感動体験ムービーだ。

 今回の感動体験ムービー作りを手がけたのは、起業家支援の分野でその名を知られるアントレプレナーセンター(東京都中央区)の福島正伸代表取締役社長と一緒に働いていた大前みどり氏。大前氏は現在、個人でイーファイブ・プランニング(埼玉県朝霞市)を立ち上げ、感動体験ムービーの作成を企業から請け負っている。ただし、ここでいう感動体験ムービーとは、デジタルカメラで撮影した写真と、写真に添える簡単な言葉だけで構成するものだ。凝った作りの動画ではなく、ストーリー仕立ての写真のスライドショーになっている。

1000人のドライバーから感動体験募集

 ヤマト運輸の場合、大事なのはセールスドライバーが体験した現場での感動を簡潔な言葉にまとめることであって、大前氏はセールスドライバー約1000人から、仕事を通じた感動体験談を集めた。その中から宅配便の現場では「よくある」感動体験を10件ほど選び出し、ムービーにまとめた。上映時間は数分ほどだ。

 大雪の日に荷物を届けておばあさんにお礼を言われた話や、震災時に実際にあったこと、セールスドライバー同士の助け合いなど、ヤマト運輸の現場で日常的に聞かれる代表的な話が中心で、「何度見ても泣けると従業員から評判だ」(CSR推進部社会貢献課の太田浩城係長)という。8月に上映を始めた事務・作業編も、上映中にすすり泣く人がいた。こうして気持ちが高ぶったところで、満足創造研修では「自分たちに何ができるのか」をグループ討議したり、個人ごとに1年間の行動計画を立てたりする。

 ヤマト運輸は2008年4月に始めた満足創造研修に手ごたえを感じており、今後も継続していく計画だ。研修の実施と並行するように、顧客からのお褒めの事例を集めて社内で共有し、対象者を表彰する制度「ヤマトファン賞」の受賞者が過去5年で約3倍の年間5000人以上に増えてきている。それだけサービス品質に対する顧客の評価が上がってきていると、ヤマト運輸は考えている。