日立製作所中央研究所の矢野和男・主管研究長

 日立製作所の中央研究所(東京都国分寺市)はオフィス内の社員の仕事状況を可視化して業務改善に役立てる「ビジネス顕微鏡」の研究・開発を加速している。2007年から、大阪ガスやドイツの銀行など様々な企業オフィスで実証実験を開始。2008年にはコクヨオフィスシステム(東京都千代田区)などと提携し、さらに幅広いオフィスで検証を始めた。

 ビジネス顕微鏡はオフィスの各社員が装着するセンサー付きの名札と、ここから随時得られる情報を格納するデータセンターで構成される。名札には、集音用のマイク、温度計、照度計など様々なセンサーと、データセンターへ情報を発信するための無線機が付いている。「特に赤外線センサーと加速度センサーを重視している」(矢野和男・主管研究長)という。

 赤外線センサーでは誰と誰がコミュニケーションしているかを検知する。例えばAさんとBさんが向かい合ったり近くにいたりする時は、AさんとBさんの名札の赤外線センサーが互いに反応して、「14時53分からAさんとBさんが4分30秒間近くにいた」ことを記録する。会議などの場合は、近くに集まっていれば検知されるが、離れた席から聞いているような場合は「会っていない」と認識される。

 一方の加速度センサーでは、XYZの3軸で名札を付けている人の動きを検知する。どちらに向かって歩いているか、手を動かして仕事をしているか、といった動きのほか、もっと細かな無意識の筋肉の動きまで検知する性能を持つ。

個人ごとに装着するセンサーは、名札型のほかに脈拍など健康状態を把握するための腕時計型もある
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 「これで、楽しんで仕事をしているかどうかを測れる」(矢野氏)。同じ椅子に座っている状態でも、やる気のない時はふんぞり返ったり、やる気のある時は真剣に机に向かったり、という特徴がある。これをもっと細かく分析すると、個人・グループで仕事などに集中している状態(フロー状態と呼ぶ)の時には加速度センサーに特徴的な数値が表れることが分かってきた。

 「私自身、ずっとセンサーを装着しているが、立ち話をするとフロー値が上がることが分かってきたので、仕事の能率を改善するために生かしている」(矢野氏)。このような個人ごとの特徴のほかに、赤外線センサーから得られる組織内の人同士でのコミュニケーションの仕方についてデータを組み合わせると様々なことが分かる。

 例えば、その人が頻繁に他人と話をしているかどうかとフロー値とは相関が低いことが分かってきた。また、スター型の組織(「地位が上だったり、知識が豊富な特定の人」と「そのほかの人」は頻繁に話をしているが、そのほかの人同士の接触があまりない組織)では総じてフローが低調だという。こうした事実を把握し、組織風土の改善に生かす方策を探っている。

 名札から得たデータはオフィス内の無線基地局を経由して中央研究所にあるデータセンターに格納する。既に蓄積しているのは実証実験に参加しているオフィスの約700人分。人数は少ないが、最短0.05秒ごとにデータを取得するため、データ項目数にすると2000億件もの膨大な容量になる。今後も増え続ける大量のデータから、より容易に知見を引き出せるようにするための研究も進めている。

■変更履歴
本文中「東京ガスやドイツの銀行など様々な企業オフィスで実証実験を開始」との表現がありましたが、「大阪ガスやドイツの銀行など様々な企業オフィスで実証実験を開始」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/10/23 19:30]