興和不動産はFOMA/無線LANデュアル端末を導入し“働き方”の変革に取り組んでいる。同社は2006年10月,本社移転を機に内線電話をIP化するためにIP-PBXを導入。併せて,NTTドコモのFOMA/無線LANデュアル端末「N900iL」を約370台導入した。さらにその約8カ月後には端末をバージョンアップ。N900iLの後継機であるN902iLに全面的に切り替えた。

不動産業の急激な変化に対応

 興和不動産がN900iLの導入を決断したのは,社員の働き方を変えて業務を効率化するためだ。背景には,不動産業を取り巻く状況の変化がある。

写真1●興和不動産の中山憲二執行役員総務部長(中右),企画管理本部総務部の植松達志参事役(右),企画管理本部情報システム部の長谷川真副参事役(左),企画管理本部総務部の坂口真衣氏(中左)
写真1●興和不動産の中山憲二執行役員総務部長(中右),企画管理本部総務部の植松達志参事役(右),企画管理本部情報システム部の長谷川真副参事役(左),企画管理本部総務部の坂口真衣氏(中左)

 中山憲二執行役員総務部長(写真1中右)は,「不動産業は土地や物件の貸し借りだけではなく,証券化ビジネスなど業容が拡大している。不動産業が情報産業の側面を持ってきたため,部署間の情報共有がこれまで以上に重要になっている。不動産業の変化に対応するには,働き方を変えていくしかない」と話す。本社移転に当たっては,気軽に集まって議論ができる共同スペースを作り,事業部間の共同作業を容易にするなど,情報共有しやすい社内環境の構築を念頭に置いたという。

 そのためには,従来のような固定電話では,社員が机に縛られる。しかも,電話の取り次ぎや折り返しなどで業務効率が落ちる。こうした非効率な状況を変えるには,一人ひとりにダイヤルインの電話番号を割り振り,携帯電話を持たせる必要があると判断した。

 そこで目を付けたのが,社内では無線IP電話となり,社外では携帯電話として使えるN900iLだった。1台の端末で社内でも社外でも使えて,社員がオフィス内で場所に縛られずに動きやすくなる,と考えた。

音声は11b,データは11aを使う

 SIP(session initiation protocol)サーバーなどのIP電話用のシステムには,日立コミュニケーションテクノロジーの「IPTOWER- SPシリーズ」を採用した(図1)。無線LANスイッチと無線LANアクセス・ポイント(AP)は,米メルー・ネットワークスの製品などを導入。ネットワークの構築は,日立電子サービスが担当した。

図1●興和不動産の社内ネットワークの概要
図1●興和不動産の社内ネットワークの概要
本社移転を機に内線電話システムをIP化。現在,N902iLを約370台,IP電話端末を約50台使用中。本社と各拠点間はインターネットVPNで接続している。
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 端末は,約370台のN900iLだけでなく,固定のIP電話機を約50台導入した。これらに加え,非常時用に加入電話の契約を一部残した。内線電話のIP化後も,10台程度の加入電話を使い続けている。

 固定のIP電話機は,大阪支社や同社が保有するビルの管理室に設置した。本社と各拠点間はインターネットVPNで接続する。各拠点間は,本社に設置したSIPサーバーを経由することで内線通話ができる。

 本社内のAPは,音声品質を確保するため,音声用とデータ通信用で方式を分けている。具体的には,音声用には2.4GHz帯のIEEE802.11b,データ通信用には5GHz帯のIEEE802.11aを使う。無線LAN部分は音声とデータ通信のトラフィックが混在しないため,特にQoS(quality of service)をかけていない。

 一方で,有線LANは,音声とデータのトラフィックが混在する。そのため,有線LANの部分は,音声トラフィックを優先するようにQoSをかけて,通話品質を確保している。

「評判が良くなかった」N900iL

 2006年10月にN900iLと固定IP電話機を導入したが,直後からN900iLはトラブルが頻発したという。

 企画管理本部総務部の植松達志参事役は,「通話の途中でいきなり切れたり,音が突然小さくなったりなどのトラブルが絶えなかった。その上,長時間の通話になると(端末の)発熱が気になった。正直,エンドユーザーによるN900iLの評判は良くなかった」,と導入当初を振り返る。特に,通話しながら歩き回っていると,無線LANのAPが切り替わるところで通話が切れるトラブルが多かったという。

 とはいえ,端末を全面導入した以上,すぐに他のソリューションには変えられない。無線LANのAP数を増やしたり,APの切り替えをスムーズにする機能を使ったりと,あらゆる工夫をしたが,結局N900iLを使った無線IP電話システムのトラブルは改善しなかった。

N902iLに切り替えて状況は改善

 トラブル原因の特定に時間がかかり,対策を考えているうちに,N900iLの後継機であるN902iLの出荷が始まった。そこでN902iLを試してみると,N900iLで発生していたトラブルはN902iLでは発生しなかった。例えば無線LANのAPが切り替わる場所でも通話が切れないなどの改善が見られた。「N902iLは,電波を受信する機能が向上したようだ」(植松参事役)。そこで同社はN902iLへの切り替えをすぐに決断し,大半を入れ替えることにした。

 このほかN902iLに入れ替えたことによる改善点として,同社は操作性の向上,バッテリーの持ち時間が長くなったことなどを挙げる。N902iLに変えてからはエンドユーザーの不満も減り,モバイル環境をうまく活用できるようになった。

 実際に,通話をしながらオフィス内を自由に歩き回る社員の姿は多くなり,共同スペースに集まって議論することも多くなったという。電話の取り次ぎや折り返しの電話など,無駄な作業も減っている。FOMA/無線LANデュアル端末の導入による働き方の変革という狙いは,達成できつつあるようだ。

ここがポイント

目的:ワークスタイルの変革

機器:NTTドコモのN900iLとN902iL

導入期間:2006年10月~(N900iL)

効果:オフィス内で社員が動きやすくなり,部署の垣根を超えた自由な議論などが活性化

●会社・プロフィール
本社: 東京都港区
売上高: 919億円(2006年4月期,連結ベース)
従業員数: 947人(2006年4月末時点,グループ合計)

●ネットワーク・プロフィール
拠点間はインターネットVPNで接続。アクセス回線には主にFTTHを利用している。内線電話をIP化し,N902iLだけでなく,固定のIP電話機も利用中。

出典:日経コミュニケーション 2008年1月15日号 74ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。