オランダに本社を置く大手外資系生命保険会社のアイエヌジー生命保険は3月,フィンランドのノキアのスマートフォン「E61」を導入した。営業担当者や役員に約80台を配布。ソフトバンクモバイルの携帯電話サービスを使い,社外にいるときでも,社内利用のメール・アドレスあてのメールを送受信したり,社内のスケジューラと同期を取れるようにした(図1)。

図1●アイエヌジー生命保険は外出先でメールを利用するためにノキアの「E61」を導入
図1●アイエヌジー生命保険は外出先でメールを利用するためにノキアの「E61」を導入
ノキアの「Intellisync Mobile Suite」を導入することで,社内のMicrosoft Exchange Serverと即時同期する。
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 アイエヌジー生命保険は,グループウエア・サーバーに米マイクロソフトの「Microsoft Exchange Server」を利用している。同社の業務上,営業担当者は一日中外出していることが多い。そのため,多くの社員が社外から社内のグループウエア・サーバーにアクセスすることを希望していた。それを実現する手段として従来は,PHSカード端末とノート・パソコンからダイヤルアップ接続で,社内のサーバーに接続していた。

 しかし,終日外回りをする営業担当者にとって,メールとスケジュールの確認のためだけにノート・パソコンを持ち歩く負担は大きい。携帯電話のメール・アドレスにメールを転送することも考えたが,情報システム担当者が管理できず,セキュリティ上問題がある。そこで,携帯電話とグループウエア・サーバーを同期するシステムを導入することにした。

コストとセキュリティでE61を選択

写真1●アイエヌジー生命保険ITインフラサービス本部ネットワーク運用管理グループの秋山晃宏マネージャー(左)と村田啓之介プロジェクトマネージャー(右)
写真1●アイエヌジー生命保険ITインフラサービス本部ネットワーク運用管理グループの秋山晃宏マネージャー(左)と村田啓之介プロジェクトマネージャー(右)

 導入を検討したのは,台湾HTCのWindows Mobile端末,カナダのリサーチ・イン・モーションのBlackBerry端末,ノキアのE61の3種類。ここから,ノキアのE61を選択した。決め手は「セキュリティとコストの両面で優れていた」(ITインフラサービス本部ネットワーク運用管理グループの村田啓之介プロジェクトマネージャー,写真1右)からだという。

 Windows Mobile端末は「高機能だが,自由度が高く管理しきれない不安があった」(村田プロジェクトマネージャー)ため,選考の対象から外れた。

 BlackBerry端末は,通信料金以外にも利用料金を支払わなければならない点がネックだった。NTTドコモがBlackBerry端末を利用できるサービスを提供しているが,通信料金のほかに「BlackBerryネットワークサービス使用料」が月額5985円かかる。

 スマートフォンだけではなく,通常の携帯電話の活用も検討した。具体的には,携帯電話のブラウザからサーバーにアクセスする「Outlook Mobile Access」と呼ぶ機能などを検証した。この機能は,Exchange Server 2003が標準搭載する。検証の結果,「使いやすさの面でスマートフォンより劣る。また,セキュリティ対策にコストがかかり,Webベースなのでメールの同期よりも通信料がかさむ」(村田プロジェクトマネージャー)と判断。当面は利用しないことにした。

 採用したE61は,社員に支給していた携帯電話と交換し,従来と同じ電話番号で使う。アイエヌジー生命保険の社内にノキアのミドルウエア「Intellisync Mobile Suite」(IMS)のサーバーを設置。E61とIMSの組み合わせで,社外の端末と社内のExchange Serverの同期を取る。

外部接続機能をすべて無効に

 端末の更改に合わせて,メールやスケジュールの情報漏えいを防ぐため,セキュリティ対策も強化している。

 一つはIMSの持つセキュリティ機能。紛失時には,リモートから端末内のデータをすべて消去する。

 二つ目は,ブルガリアのウェブゲートが手掛けるE61向けソフトウエア「Advanced Device Locks」の採用。このソフトウエアは,E61の様々な設定を変更できる。それらの設定は管理者以外は変更できない。アイエヌジー生命保険は,これを利用して(1)パスワードによるロック,(2)外部接続インタフェースの無効化,(3)ブラウザの利用禁止──を設定した。

 パスワードによるロックをかけることで,電源投入時の端末はロックされた状態になっている。パスワードを入力すれば端末を操作できるようになるものの,パスワードを連続して3回間違えると端末は一切使えなくなる。電源投入後も,20分に1回もしくは電波が圏外になるとロック状態になる。IMSによるリモート消去機能と組み合わせることで,端末が電波の圏内でも圏外でも,情報漏えいに対するリスクを低減している。

 外部接続インタフェースの無効化では,BluetoothやUSBなどをすべて使用不可とした。これにより,第三者がE61をパソコンに接続して,社内メールを外部に持ち出すといった心配がなくなる。また,ブラウザの利用を禁止したのは,Webメールからの情報漏えいを防ぐためである。

 E61の導入から約半年がたったが,「トラブルはほとんど無かった」(秋山晃宏ITインフラサービス本部ネットワーク運用管理グループマネージャー)という。「せいぜい,パスワードを間違えて端末が使えなくなったという問い合わせがあったくらい。端末の操作性について導入初期は苦情もあったが,今では社員がメールの送受信に活用している。メールの確認のためだけに出先から帰社する人はいなくなった」(同)と導入効果に満足している。今後,導入台数を200台程度まで増やすことも計画している。

シスコのIP-PBXとの連携を検討

 現時点では,メールやスケジュール,電話に用途を絞っているE61だが,アイエヌジー生命保険ではさらなる活用の検討を進めている(図2)。

図2●E61のさらなる活用方法を検討中
図2●E61のさらなる活用方法を検討中
現時点では,セキュリティ対策のためにメールと通話以外を利用できない設定にしている。今後はさらに多くの用途に対応させ,E61だけで業務を完結できるようにしていく方針だ。

 例えば,内線電話機としての活用がその一つ。同社は,内線電話システムに米シスコのIP-PBX「Cisco CallManager」を利用している。E61の無線LAN機能を使って社内LANに接続し,内線電話機として活用したいという。そこで同社は現在,ノキアが6月にリリースしたソフトウエア「Intellisync Call Connect for Cisco」を検証中だ。これを使うことで,E61はCallManager配下の内線電話機となる。

 社内のパソコンで処理していた業務を,E61だけで完結させることも検討中だ。VPN接続でイントラネットにアクセスしたり,E61のブラウザ利用を解禁するなどの方法を模索している。

 これ以外にも,今後新規導入する機種をノキアのE61からソフトバンクモバイルの「X01NK」に切り替えることを検討している。X01NKはE61をベースに,ソフトバンクモバイル向けに開発された端末。スマートフォン向けパケット定額サービスに対応する。E61ではこの定額サービスが使えない。X01NKに切り替えて通信料金を削減しようという考えだ。

  

■変更履歴
本文中で秋山マネージャーのお名前を「晃弘」さんとしていましたが、「晃宏」さんになります。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2007/10/17 12:05]

出典:日経コミュニケーション 2007年8月1日号 112ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。