写真1●無線LAN導入を推進した三井不動産レジデンシャルロジェクト推進部 プロジェクト推進室の加藤智康主管(写真右)と設置を担当したNTTブロードバンドプラットフォーム ビジネス企画部の杉浦雅仁氏(写真左)
写真1●無線LAN導入を推進した三井不動産レジデンシャルロジェクト推進部 プロジェクト推進室の加藤智康主管(写真右)と設置を担当したNTTブロードバンドプラットフォーム ビジネス企画部の杉浦雅仁氏(写真左)

 東京・港区の芝浦地区で,開発面積が約6万m2にもなる「芝浦アイランド」の建設が進んでいる。四方を運河に囲まれた島を大きく4街区に分け,それぞれに約1000戸規模の高層マンションを建設する巨大プロジェクトだ。

 芝浦アイランドは,他の大規模マンションでは見られない取り組みを実施している。「将来的に利用が見込める通信インフラは一歩先んじて取り入れていこう」(三井不動産レジデンシャルのプロジェクト推進部 プロジェクト推進室の加藤智康主管,写真1右)との考えの下で,公園などの屋外にまで2.4GHz帯を使ったIEEE 802.11b/g対応の無線LAN環境を整備し,インターネットに接続できるようにした。芝浦アイランドの無線LAN環境は居住者サービスの一環だが,屋外への無線LANエリアの展開という試みは広い敷地を抱える企業の参考になるだろう。


メッシュと異なる方式で屋外展開

 芝浦アイランドの街区の中で一足早く完成し,2007年2月から入居を開始した南地区では,屋内に17台,屋外に8台の無線LANアクセス・ポイント(AP)を設置している。無線LANによるインターネット接続の利用は登録制。居住者だけでなく来訪者もWebブラウザから氏名や連絡先を登録すれば利用できる(写真2)。

写真2●芝浦アイランドでのインターネット接続用画面
写真2●芝浦アイランドでのインターネット接続用画面
最初の接続時にユーザーの名前などを登録する。以降,同じMACアドレスからのアクセスであれば一定時間は登録し直すことなく使い続けられる。

 この無線LANシステムの特徴は,屋外のAP接続にマルチホップと呼ぶ方式を採用した点だ(図1)。この方式では,複数のAPを無線で多段に接続。有線LANに接続する中継系APを起点に,ユーザーが接続するAPまでの経路を固定化してつなげる。APには,パナソニック モバイルコミュニケーションズ(PMC)の製品を採用した。

図1●屋外の無線LANアクセス・ポイントはマルチホップ型で無線接続
図1●屋外の無線LANアクセス・ポイントはマルチホップ型で無線接続
公園などの屋外共用エリアは,アクセス・ポイント(AP)単位で経路制御するメッシュ型システムではなく,AP間をあらかじめ固定的に無線接続するマルチホップ型を採用した。

 無線LANシステムの構築を担当したNTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP) ビジネス企画部の杉浦雅仁氏(写真1左)は,マルチホップ方式の利点として「チャネル設計のしやすさ」を挙げる。大学のキャンパスなど屋外無線LANでの採用例が多い「メッシュ方式」は,マルチホップ方式とは異なり各APが動的に経路を制御して複数経路でデータを送受信する。そのため柔軟なエリア構築が可能だが,その技術に関する規格「IEEE 802.11s」は2006年に基本仕様ができたばかり。メッシュ方式とうたっていてもメーカーによって機能が異なり,各APが同一の送受信チャネルを使う製品もある。その場合は「ホップを重ねた際の電波干渉による減衰が大きく,実効速度が大幅に低下する恐れがある」(NTTBPの杉浦氏)という。

 一方マルチホップ方式は,無線通信の経路を固定しているため,中継系APやユーザー接続系APに最初から異なるチャネルを割り当てて,電波干渉を避けられる。NTTBPの検証ではAP3台を“ホップ”した場合,マルチホップ方式は同一チャネルを使うメッシュ方式に比べて,2倍近くの実効速度を維持できたという。

 また,芝浦アイランドが採用したPMC製APは最大で7ホップ,つまり8台までのAPを接続可能で,電波信号強度(RSSI,received signal strength indicator)や電子機器などからのノイズを観測して自動的に送受信チャネルを変更する機能も備えている。将来的なエリア拡張にも対応しやすい。

無線IP電話機の活用も視野

 芝浦アイランドが屋内だけでなく,屋外まで無線LANのエリアにしたのは,居住者が快適に過ごすための空間を広げるという目的があったためだ。「芝浦アイランドには室内だけでなく屋外にも(ノート・パソコンを)使ってもらいたい場所がたくさんある。その場所の魅力を高めていくために無線LANを導入した」と三井不動産レジデンシャルの加藤主管は説明する。実際,芝浦アイランドは屋内の共用スペースだけでなく(写真3),屋外にも座って落ち着ける場所がある。屋外のAPはこうした場所が無線LANエリアになるような配置にした。

写真3●無線LANが使えるマンションの屋内共用エリア
写真3●無線LANが使えるマンションの屋内共用エリア
無線LANアクセス・ポイントは天井裏に埋め込まれている。

 屋内外の無線LAN APは,すべてPMC製の無線LANコントローラで制御している。APの故障時などは代替機に交換するだけで,設定情報を自動ダウンロードして,即座に運用を再開できる。現在は南地区だけの運用だが,将来的には各街区ごとに1台の無線LANコントローラを設置して無線LANエリアを広げる計画だ(図2)。実は今回の無線LANシステムは,VoIP(voice over IP)の利用を考慮したハンドオーバー機能を備える。今後この無線LANインフラを活用し,マンション内を巡回する警備員が無線IP電話機を使うといった将来像も描いている。

図2●東京・港区の大規模マンション「芝浦アイランド」の屋外無線LANエリア
図2●東京・港区の大規模マンション「芝浦アイランド」の屋外無線LANエリア
マンション内の共用施設だけでなく,屋外の公園でも無線LAN経由でインターネットに接続できる。住民サービスの一環だが,将来的にはマンション管理業務などでの活用も見込む。

出典:日経コミュニケーション 2007年4月1日号 132ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。