東日本大震災と原発事故により、福島県は深刻な打撃を受けた。その地域経済の復興を金融面から支えるのが、福島県を地盤とする地方銀行の東邦銀行だ。震災には勘定系システム刷新の最中に遭遇したが、経営や情報システム部門の強い意思でプロジェクトを完遂した。北村清士頭取に地域経済復興に向けた取り組みやシステム刷新の意義を聞いた。

東日本大震災や原発事故は、今でも福島県の地域経済に深刻な影響を及ぼしています。

北村 清士(きたむら せいし)氏
写真:尾苗 清

 国や県の復旧、復興に向けたプロジェクトもようやく前に進みつつありますので、状況は少しずつプラスに転じつつあります。ただ、まだ一部の産業での話であり、先行きは楽観視できません。

 現実に風評被害などで温泉旅館が相次いで廃業を強いられており、気の抜けない状況だと受け止めています。福島がひとくくりにされ、いろいろな誤解や認識のギャップが生じています。例えば(事故現場から遠く離れた)会津では、秋は小中学生の修学旅行の取り込みが、地域経済に大きな比重を占めていましたが、今年は全く期待できない状況です。

復興のためには何でもやる

地銀として、復興に向けどのような取り組みをしていますか。

 基本的に我々の営業基盤は、ほぼイコール福島県ですから、福島の復興なくしては、我々の成長もあり得ません。福島が元気になるためだったら何でもやる覚悟で、知恵を出しています。

 例えば5月から始めた復興支援通販事業では、特産品を既に3万個、1億円以上を売り上げ、出店者に喜んでもらっています。銀行法に違反しないように、送料などの原価だけを負担する仕組みで運営しています。11月からは、温泉旅館を支援する観光産業復興支援事業も始めました。宿泊客の中から抽選で3万円相当のペア宿泊券が当たるというものです。はがきで応募してもらいますが、切手代などを我々が負担しています。

本業では、どのような支援策を打ち出したのですか。

 一番評価されたのは、全国に避難した被災者に対して、通帳や印鑑が無くても本人確認さえできれば、10万円までは即座に払い戻せるようにしたことです。震災直後に営業店で実施した取り組みを、他行の全面的な協力を得て県外に広げたのです。これは我々が独自につくったスキームです。他行での払い戻しは9月末で1600件に達しました。

 行方不明者の親族には暫定払いも実施しています。行方不明のままでは預金をお渡しできないのですが、親族であると分かっていながら、法律を盾にした事務的な対応はできません。そこで当初は30万円、途中から60万円までを暫定払いするという思い切った施策を打ち出しました。

 ただ「東邦銀行に行けば、行方不明の親族の預金もおろせる」と分かると、ほとんどの人は引き出しません。避難所などでお金を持っているより、銀行に預けておくほうがよいからです。つまり、仕組みをつくっておくだけで、安心感が全く違うのです。

 こうした今までにない仕組みを、事務方がどんどん考えてくれました。私は身内ながら、さすがだと思いました。

刷新には経営の関与が重要

勘定系システムの刷新の最中に被災しましたが、計画通り9月に稼働できました。

 震災直後は、どうなるか様子を見ざるを得ませんでした。ただ、5月の連休明けぐらいには、行内も落ち着いてきましたので、計画通り切り換えたほうが良いと判断しました。

前回の刷新の際には、富士通が開発にてこずったこともあって稼働が9カ月遅れましたが、今回その経験が生かされましたか。

 前回は当時の頭取の経営決断で延期したのですが、大正解でした。その際に苦労した部隊が今もいますから、あの学習経験が生かされたと思っています。今回は現場から、遅れる心配はないとの報告が上がってきましたので、当初の方針を貫くことにしました。

不安はありませんでしたか。

北村 清士(きたむら せいし)氏
写真:尾苗 清

 ええ、ありませんでした。ただ私は過去の体験から、ハードウエアを主体にした更新といえども、油断はならないと考えていました。テストやリハーサルは万全を期するようにと指示しました。当初、一部の店舗だけで実施するとしていたのですが、全店で実施することにしました。

 私はITの専門家ではありませんが、体験的にも、他行の例を見ても、システムはいつ何が起きるか分からないというのが実感です。ですから今回も、システム全体の更新と同じような方針で臨むべきだと考えていました。

 それと経営陣の関与がとても重要だと思っていました。経営陣は常識的な判断しか下せません。でも、システム部門任せにするのではなく、必ず進捗状況を常務会や取締役会に報告させていました。

 それにより、経営陣のプロジェクトへの認識が高まり、システム部門にもいい意味での緊張感を維持してもらえたのではないでしょうか。「必要があれば経営も動く」と感じてくれた結果、震災対応も含め、全くと言っていいくらいトラブルも無く、プロジェクトを完遂することができました。

東邦銀行 取締役頭取
北村 清士(きたむら せいし)
1970年4月に東邦銀行入行。90年3月に企画部長代理兼企画課長。92年3月に方木田支店長、94年3月に須賀川支店長。96年6月に資金証券部長、98年6月に総合企画部長。99年6月に取締役総合企画部長に就任。2001年6月に常務取締役本店営業部長。02年6月に常務取締役。04年6月に取締役副頭取。07年6月より現職。1947年4月生まれの64歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)

出典:日経コンピュータ 2011年11月24日号 pp.88-91
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