タイのタイコム公社の子会社IPSTARが保有するブロードバンド通信用の人工衛星「IPSTAR」(THAICOM4号機)。世界最大の通信容量を持つブロードバンド専用の人工衛星であり、通常の衛星が2G~3Gビット/秒のところ、総帯域容量は45Gビット/秒に達する。利用料金も他の衛星通信サービスと比べて破格値であり、下り最大1Mビット/秒の通信サービスを月額3500円から利用できる。

 こうした特徴から東日本大震災直後にも大活躍。日本の携帯事業者4社が、地上系の通信回線が途絶えた地域で基地局のエントランス回線として利用した。IPSTARが大容量かつ安価なサービスを提供できるのはなぜか。タイコム公社のPaiboon Pnuwattanawong CTOにその理由を聞いた。

(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション

東日本大震災の直後、日本のすべての携帯電話事業者がIPSTARを基地局の緊急エントランス回線用に利用したと聞く。これだけ携帯電話事業者にIPSTARは受け入れられたのはなぜか。

タイコム公社 CTO Paiboon Panuwattanawong氏
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 IPSTARは世界で最も通信容量が大きい衛星だからだ。一般消費者向けのブロードバンド通信サービスのほか、携帯電話事業者のバックホールの仕組みにも利用できる。通信容量が大きいため、1ユーザー当たりの料金を安くできる点も強みだ。

 携帯電話事業者のバックホールへの応用は、2年程前からソフトバンクモバイルと共同でフェムトセルのバックホールに利用しようと開発を進めてきた。東日本大震災の前に実際にサービスとして運用を開始していたため、震災直後にすぐに実地投入できた点も大きかった。

 なおタイコムとしては、2004年12月のスマトラ島沖地震や2008年5月に発生した中国の四川大地震のときにもチームを派遣し、インフラ復旧の手助けをした。この二つの経験も今回の東日本大震災の復旧活動には役に立った。

IPSTARの利用料金は、他の衛星通信サービスと比べると1桁以上も安い。ここまで価格破壊できる理由を教えてほしい。

 IPSTARはブロードバンド通信に特化した設計であり、通信可能なエリアを作る衛星ビームの照射方法に、携帯電話などに用いられるセルラー通信の考え方を取り入れているからだ。これによって周波数帯を繰り返し利用し、全体の容量の大幅アップが可能になった(図1)。

図1●IPSTARのサービスエリア
携帯電話のエリアのように狭いスポットビームの照射と、広域をカバーするビームを組み合わせている。
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 通常の衛星は広域をカバーするために、例えばアジア全域にビームを照射するような作りになっている。このようなビームの照射方法は、同じコンテンツを同時に届ける映像のブロードキャストには向いている。しかし音声や通信などのポイント・ツー・ポイント・コミュニケーションでは、非常に大きな幅の周波数帯が必要になり、このような設計は向いていない。

 そこでIPSTARでは、例えば日本向けは4本のビームに分けるなど、ビームを照射するエリアを極端に狭くした。その代わりに北海道を照射するビームと関西地域を照射するビームは同じ周波数帯を利用する。こうすることで、セルラーシステムと同様に限られた周波数帯で大容量を実現できる。

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