[前編]事業環境の変化を先取り ITサービスも強力に推進

果敢なM&A(合併・買収)によって強力な販売網をグローバルで築き上げたリコーは、複合機などを販売する製造業の枠を越え、サービス事業の育成・強化に力を入れる。IT活用先進企業としても知られているが、M&Aに伴う情報システムのグローバル統合は苦労の連続だったという。近藤史朗社長にその事業戦略と情報システムの今後のあり方について聞いた。

企業のプリンティング環境の運用を丸ごと請け負うMPS(マネージド・プリント・サービス)など、サービス事業に熱心ですね。製造業としてサービスに力を入れる理由を聞かせてください。

 これまで「車を売り、ガソリンを売る」(複合機を売り、消耗品を売る)というビジネスモデルでやってきたわけですが、我々の商品がコモディティー化しつつあるというのは否めない事実です。

 顧客のニーズも所有から利用にどんどん変わってきており、特に欧米はそうした傾向が強い。例えば欧州で、我々は「ペイ・パー・ページ」と呼ぶサービスを提供していますが、これは個々の複合機を売るのではなく、プリンティング環境全般を提供してほしいというニーズに応えたものです。オフィスで出力する紙をベースに、1枚いくらで料金を徴収するサービスです。そういう方向にどんどんニーズがシフトしていっているのです。

近藤 史朗(こんどう・しろう)氏
写真:陶山 勉

 我々がサービス化へ向けて強い意志を持って取り組んでいるのは、紙の未来を考えるからでもあります。オフィスから紙が一気になくなることはないでしょう。でも、カメラのフィルムはここ数年でほぼなくなりました。

 すでにワークフローシステムにiPadなどを絡めて、環境負荷の大きい紙を使わないで済ますといったやり方が登場しています。ただ、いくらiPadのような端末が普及しても、情報を入れる器として「ページ」という概念は残るでしょう。我々はそうしたドキュメントのやり取りに関する知見を持っているわけですから、ソフトウエアを含めてツールを提供できます。さらに、もっとリッチな情報共有のやり方を提案できると思っています。

 我々がMPSを「MDS」、つまり「マネージド・ドキュメント・サービス」と呼んで推進する理由も、そこにあります。単純に製造業のサービス化の流れに乗るのではなく、端末やクラウドなどの技術的進化に対応し、自ら引っ張っていこうとしているわけです。

SIerを買収することもあり得る

IT機器やネットワークの導入・保守を請け負う「ITサービス」も、サービス事業の柱ですね。

 企業には守るべき資産としてのドキュメントが多数あります。しかも、それをきちんと使えるようにしておかなければなりません。大手企業なら基幹系システムにお金をかけられます。我々のITサービスは、そうしたことができないSMB(中堅・中小企業)向けに展開していこうと考えています。

 SMBを顧客とするITサービスは、ブロードバンドの導入やPCなどの機器の設定から保守、そしてパフォーマンス管理まで全部提供しようというものです。グローバル展開を始めており、MDSのビジネスとは、オーバーラップさせながら進めています。

ITサービスのようなIT関連事業にどこまで踏み込むのですか。

 基本的に基幹系システムとか、大規模なERP(統合基幹業務システム)は手がけていません。SMB向けのERPをリセールしている程度です。我々のITサービスは、顧客がクラウドなどを安全に使うために必要な環境の提供に注力しているのです。

 SMBの顧客も成長するわけですから、最終的には基幹系システムも手がけるかもしれない。必要があればSIerを買収することもあるかもしれません。ただ今は国内外とも、IBMなどのITベンダーと一緒にやっていこうと考えています。リコーとして顧客のドアをたたいた案件でも、歯が立たないなと思えば、ITベンダーに入ってもらう。今はそういう商談が増えています。

2014年度までにサービス事業などの新規事業の売上高比率を25%に引き上げることを目標していますが、達成は可能ですか。

 むしろ引き上げないと駄目です。少し比率が足りないなと思っています。新規事業はまだ一つひとつは小粒ですが、環境・省エネ分野も含め将来有望なものがどんどん出てきています。

 リコーは世界中に販売網を持っています。販売関連で約7万5000人を抱え、支店がないのはインドネシアぐらいです。私は社内に対して、販売網を自動販売機だと言っています。その自動販売機には数種類しかジュースが入っていないよ。せめて20本は入れてよ。そんな言い方をしているのです。今後、自動販売機に入るものを次々に出せるはずです。

リコー 代表取締役 社長執行役員
近藤 史朗(こんどう・しろう)氏
1973年3月、新潟大学工学部機械工学科卒業。同年4月、リコー入社。96年2月にIPS事業部α-PTリーダー。2000年6月に執行役員に就任、同年10月に画像システム事業本部長。03年6月に常務取締役、05年6月に取締役 専務執行役員 MFP事業本部長。07年4月より現職。1949年10月生まれの61歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)

出典:日経コンピュータ 2011年2月17日号 pp.88-90
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