Linuxの創始者、リーナス・トーバルズ氏へのインタビューの第4回。今回は,日経Linuxからの質問に答える。日経Linuxの読者の多くは,実際にLinuxを操作し,使う人たち。そんな読者をよく困らせているのが,「カーネルをバージョンアップしたら,それまで使えていたプログラムが動かなくなった,機器が使えなくなった」というトラブルである。この問題は本当によく起こる。だからこそ月刊誌の存在意義があるともいえるのだが,トーバルズ氏に,この原因となっているLinuxカーネルの“ある方針”について聞いてみた。(聞き手は日経Linux編集長 米田正明)

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今年のKernel Summitでは,どんなテーマで盛り上がりましたか(関連記事:Kernel Summitレポート)。

 今年のサミットは平穏でした。何年か前までは大きなテーマで盛り上がって,皆が何かしら闘っていましたが,2年くらい前からカーネル開発プロセスがスムーズになったことで,大きな問題もなくなりました。サミットで最も大事だと思うのは,議論することよりも,むしろ,みんなで同じ場所に集まり、飲んだり食べたりすることなんです。今年は、何人くらい参加したんだろう、80人くらいでしょうか。ホントに楽しいですよ*1

*1 Kernel Summitに参加した富士通の小崎氏によると、「Linusはギャグを言っているばかりで、全然まじめに議論に参加していないようだった」とのこと。

最近は,カーネルの開発スピードが本当に速くなりましたね。短期間にすごい量のパッチが当てられています。リーナスさん自身は,1日に何時間くらいカーネルの開発やメンテナンスに時間を使っているのですか。

 日によって変動しますね。今は3ヶ月に1度の頻度で,カーネルの新リリースを作っているんですが,リリース直後の月は実は何もしないのです。実際は2.5~3カ月の間くらいです。リリース・サイクルの最初の2週間は,世界中のカーネル開発者の仕事を集めて,マージする作業があるんですが,実はこの期間が忙しい。それが終わったら,実際のリリース・サイクルに入りますが,そこからしばらく,時間が空きます。ですから,1日8時間とか言えません。忙しいときは1日中マシンに向かっているし,そうでないときは,他の人からの問題の報告を待つ以外にすることがないときだってあります。

何だか,うちの雑誌みたいですね。原稿の校了日が近くなると忙しくて,終わったらちょっと時間ができる。

 そうですね。忙しくなるのが,リリースの直後か直前かの違いはありますけれど。

カーネルの開発がスムーズに行くようになって,大きな問題はなくなったとのことですが,私たちユーザーから見ると,まだまだLinuxには問題があるように思えます。例えば,プリンタやスキャナなどの周辺機器にLinuxのデバイス・ドライバ(以下,ドライバ)が無いことが多い*2。主要な地デジ・チューナもLinuxで使えないんです。使いたい機器が使えない。この問題がWindowsからLinuxに乗り換えられない理由の一つになっているように思えます。だからLinuxが普及しにくい。

 確かにその問題は少しはありますが,大した問題じゃないですよ。実際,Linuxカーネルは,Vista 64ビットよりも多くのデバイスをサポートしています。以前は無線デバイスへのサポートに問題がありました,デバイス・メーカーが何も協力してくれたかったからです。どうやってドライバを作ったらよいか私たちには分からなかった。でもそれは昔のことです。今は,Linuxはデバイス・メーカーにとっても重要なOSになってきたので,状況は改善していますよ。