米国ではバラク・オバマ大統領の下で,連邦政府がブロードバンド・インフラ整備に乗り出しつつある。オーストラリアやニュージーランドも国費によって全国レベルの光ファイバ網整備に着手している。一方で日本は,ブロードバンド先進国と言われながらも,各種国際統計によると諸外国に“追いつかれ追い越されている”状況だ。前衆議院議員で現在ソフトバンクの社長室長である嶋聡氏に,海外や日本の情報通信政策についての意見,その将来展望などを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=日経コミュニケーション


米国のオバマ政権の情報通信政策をどう見ているか。

ソフトバンク社長室長の嶋聡氏
[画像のクリックで拡大表示]

 バラク・オバマ新政権の政策として,「グリーン・ニュー・ディール」が注目を集めている。だが,“環境”だけがオバマ政権の政策ではないことをまずは言いたい。オバマ政権の各種政策はかなりITに傾斜しており,政策の主役はITではないかと思っている。

 今年1月に出された「米国再生・再投資計画」(関連サイト)には,300万人以上の雇用創出を目指すと書かれている。この具体策を見ると,一番最初に書かれているのが「今後3年間で代替エネルギーの生産を倍増」というものだ。こうした点からグリーン・ニュー・ディールに注目が集まるが,私の政治家としての経験から言うと,本当にやりたいことは後ろに書く。そこで3番目,4番目,5番目の項目を見ると,次のようにある。「5年以内に米国のすべての医療カルテを電子化」,「数万件の学校,コミュニティ・カレッジ,公立大学に21世紀にふさわしい教室,研究室と図書館を備える」,「ブロードバンドを全米に拡大し,田舎町の小企業が競争できるようにする」――といった具合だ。これらを見逃してはいけない。

 さらに,米国ではブロードバンド整備に約57億ドル(約5000億円)を近々に拠出する(PDF関連資料,計258ページ,該当ページはpp.38-55)。整備の主体は,商務省と農務省に分かれている。商務省が都市部,農務省がルーラル(地方)を整備する。補助金額は各28.25億ドル(約2500億円)だ。ここでのポイントは,いずれも「オープン・アクセス」(編集部注:アクセス回線を特定事業者ではなく,どの事業者に対しても平等に同条件で使わせる)という点だ。こういうことを米国がやってくるわけだ。

ブロードバンド投資の効果は。

 その研究も米国は進んでいる。注目は全米最大の通信系労働組合の研究だ。こんなことを言っている。「ブロードバンド・インフラに50億ドルを投資するごとに,260万の雇用が生まれる」(PDF関連資料,計5ページ)。全米最大の通信系労組といえば,日本ではNTT労組のような存在だ。そこが260万の雇用,内訳は10万の直接雇用と250万の間接雇用ができる,と言っている。ブロードバンド整備は雇用効果があるということだ。

 雇用を増やすだけではない。ICTによる国際競争力を伸ばそうとして国費を投入しようとしている点も見逃せない。実は米国のICT国際競争力は既に高い。世界経済フォーラムのICT国際競争力ランキングで米国は4位だ(PDF関連資料/2007-2008年同/2006-2007年)。しかも順位を上げている。それでも国際競争力を伸ばそうとしているのだ。翻って日本は14位から19位へと順位を下げている。オーストラリアにも日本は抜かれている。日本は今なにをやってるんだ,という話になる。

 ブロードバンドの普及率で日本は世界の最先端だと思われているが,いまやそんなことはない。OECDのデータ(関連資料)を見ると,米国に抜かれ,オーストラリアにも抜かれている(編集部注:OECDのデータは下り256kビット/秒以上の伝送速度をブロードバンドと定義)。ニュージーランドにも追いつかれている状況だ。

日本のブロードバンド普及率は世界的に見れば実はもう高くない。

 それが言いたい。日本国民はブロードバンドの普及率は高いと思っているし,進んでいると思っている。だが,既に日本は追いつかれている。昨年,オーストラリアとニュージーランドに調査に行ったが,いずれの国も国費を投入してブロードバンド・インフラを整備している。ほんの数年で普及率を上げた(前述のOECDの順位を指して)。このままいくと5年先,日本はニュージーランドにも抜かれるだろう。さらに重要なことは,米国も,オーストラリアも,ニュージーランドも,光ファイバが通信インフラの最終形ということであれば,既にラスト・スパートに入ったということだ。

 日本のICT政策と民間の整備状況を見ると,以前はNTT東西がFTTHについて3000万回線を目指すと言っていたが,現在は2000万に下方修正している。諸外国がラスト・スパートするのに,日本はスロー・ダウンしている。政府のブロードバンド整備目標も不十分であり,民間の整備状況も大幅に遅れている。このままいくと,日本は諸外国に比べてさらなる後れを取る。

 OECDのデータを見ると,オーストラリアとニュージーランドは今横一線で日本に並んだところだ。今これらの国が何をしようとしているか。まずオーストラリアは光ファイバを国費で整備して,人口カバー率を98%にしようとしている。5年間で約47億豪ドル(約3000億円)を政府が拠出する計画だ。ニュージーランドも光ファイバを国費で整備しようとしている。人口カバー率は75%だそうだが,15億NZドル(約700億円)でやろうとしている。