世界各国でHSPAネットワークの開始などによってモバイル・ブロードバンド市場が急速に立ち上がりつつある。2010年以降にはHSPAを発展させた3.9世代の通信技術,LTE(long term evolution)もスタートする見込みだ。モバイル・ブロードバンドの最新動向を,世界各国の情勢に詳しいスウェーデン・エリクソンのミカエル・ハレン政府・産業担当ディレクターに聞いた。

(聞き手は,堀越 功=日経コミュニケーション


世界のモバイル・ブロードバンドの状況を教えてほしい。

スウェーデン・エリクソンのミカエル・ハレン政府・産業担当ディレクター
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 世界各国で200以上のHSPAネットワークが動きはじめている。HSPA対応端末が1000を超えるなど,市場が急速に立ち上がりつつある。欧州では2007年に市場が立ち上がったが,先進国ではなく発展途上国などでも始まっている。例えばインドネシアなどは4事業者がHSPAのネットワークを提供。ロシアや南アフリカなどでもサービスが開始された。

 現在,世界で2億6200万のW-CDMA/HSPAの加入者がいるが,そのうちの4分の1がHSPAユーザーだ。2013年にはHSPAのユーザーが20億近くに達すると見ている。なおモバイル全体では60億の加入を予想している。端末だけでなく,ラップトップや自動車への内蔵といった用途も含んだ予測だ。

 それに伴い,HSPAのトラフィックも急激に伸びるだろう。現在でもデータ通信は音声の5倍のトラフィックを生み出している。

モバイル・ブロードバンドの進展によって,固定ブロードバンドは侵食されるのではないか。

 その傾向は既に出ている。例えばポルトガルでは,モバイル・ブロードバンドの加入者が急増している一方で,ADSLサービスが急激な落ち込みを見せている。私の意見としては,今後10Mビット/秒以下の固定ブロードバンド市場はモバイル・ブロードバンドに移行していくだろう。これによって固定系の通信事業者はFTTHに注力せざるを得なくなると考える。固定ブロードバンドはFTTHによるIPTVサービス用途が中心となり,CATVや衛星放送と競う形になるだろう。

 もっともそのためには,世界各国で規制環境が異なる点が課題になる。例えば米国では,規制当局であるFCCが米ベライゾンや米AT&Tといった事業者に対して,光ファイバ設備のアンバンドルを強制していない。そのため米国の事業者は光ファイバへの投資が進みやすい環境にある。

 それに対して欧州では,規制当局である欧州委員会が,支配的事業者に対して光ファイバ・インフラのアンバンドルを求めており,光ファイバへの投資が進みにくい。例えばドイツテレコムは80%の市場シェアを持つ支配的事業者であるため,光ファイバに投資をしても他社に設備をアンバンドルしなければならない。そのため欧州ではモバイル・ブロードバンドが“パックマン”のように固定ブロードバンド市場を侵食している状況だ。

とはいえモバイル通信は周波数の容量に限りがある。固定ブロードバンドを侵食するにも限界があるのではないか。

 モバイル・ブロードバンドはHD品質のIPTVを除けば,あらゆるアプリケーションをサポートできるだろう。HSPAを高度化したHSPA EvolutionからLTE,LTE-Advancedと技術が進化することによって,トラフィックの増加を支えることができると考えている。それを可能にするためには,規制当局が適切な時期に周波数を追加で割り当てることが重要になる。

HSPAやLTEによって周波数の利用効率を上げれば上げるほどユーザーはトラフィックを消費する。事業者は投資の回収が難しくなる恐れがある。ネット系事業者にインフラを“ただ乗り”される懸念も見える。

 いわゆるネットワークの中立性の議論だが,固定系に加えてモバイル・ブロードバンドで話が出てもおかしくはない。まだ聞いたことはないが,おそらく今後は出てくるのではないか。

 現在の急激なトラフィックの伸びを考えると,事業者はバックホールの投資が必要になってくるだろう。そうなるとユーザーからの定額制による月額料金だけではなく,ネット系事業者とのレベニュー・シェアのような話が出てくる可能性もある。