[前編]国際戦略に成功できなければ日本の未来はない

総務省は2008年7月,大規模な組織改変を実施し「情報通信国際戦略局」を新設した。国内のICT(情報通信技術)産業を強化し,国際競争力を高めるとともに,通信と放送の融合による新ビジネスの創出を目指す。国内の経済成長に停滞感が漂う中,ICT関連企業の海外進出を成功に導く施策をどう打ち出すのか。国際戦略を担当する寺崎明総務審議官に聞いた。

組織改変によって情報通信国際戦略局を新設した狙いは。

 ICT産業はこれからの時代を支える重要な基盤となる。日本の実質GDP(国内総生産)成長率に対するICT産業の寄与率は約4割であるが,携帯電話をはじめICT産業を手がける企業の国際進出は十分ではない。ある調査では2004年に8位だった日本のICT競争力が,2007年には19位になった。一方で,米国は上位を維持し,近隣国では韓国が上位に入ってきた。

 少子高齢化に伴って,我が国の経済成長率が低下する懸念は大きい。現在の日本の人口は約1億3000万人だが,2050年には1億人を切ると言われている。日本国内のGDPは個人消費がおよそ5割を占めているから,人口が3割減ったら,いったいどうなるのか予測が付かない。海外の投資家も日本に興味を示さなくなり,経済の縮小は加速するだろう。

 このままでは将来の発展は望めないので,早急にICT産業の分野で国際競争力の強化を戦略的に考えるべきだ。これに成功できなければ“日本のICT産業の未来はない”という覚悟を持って「情報通信」に「国際」,「戦略」という文字を組み合わせた。省庁の部局名に「戦略」という言葉を使ったのは今回が初めてだ。

 2007年5月にまとめた「ICT国際競争力強化プログラム」も2008年7月に改定した。通信と放送の融合,三次元映像技術,ネットワーク・ロボット技術,環境関連技術の研究など各種の取り組みを実行に移し,国際競争力と経済成長力の強化を目指す。

国際戦略とは総務省が通信事業者やメーカーの海外進出を導くことなのか。

寺崎 明(てらさき・あきら)氏
写真:的野 弘路

 導くというより,官民で共同作業を進めるというスタンスだ。しばらく手探りが続くかもしれないが,産学官連携で考え,国内に閉じたモデルではなく,世界の市場を見据えたプロジェクトを推進する。

 現在は私も日本の技術を海外に広げるための交渉で,中国や南米など各国を飛び回っている。先進国よりも,今後伸びる可能性がある国との連携を進める。そうした国は人口が多く,規模を見込める。

 最近では,ブラジルに日本の地上デジタル放送方式が採用された。このため,南米を中心に各国へ向けてデジタル方式の採用を働きかけている。通信や放送方式の売り込みに省庁が動くことは異例に見えるかもしれないが,疑問を持たずにやるべきだと考えている。

 この中で,がく然としたことがある。ブラジルでは,携帯電話でワンセグ映像を視聴できるようになったが,ブラジル政府に聞くと,韓国のサムスン電子とLG電子が即座にワンセグ携帯電話機を投入したのに,日本メーカーの動きはないという。最近,東芝の子会社が投入したと聞いて,胸をなで下ろしたところだ。

 携帯電話はかつて国際展開に失敗したこともあるが,もう一度世界に出ていくべきだ。なぜなら国内の携帯電話は1億台に到達しており,その数は全人口に近付いている。

 “官製不況”で端末の販売台数が落ちたという人もいるが,既に市場は飽和状態になりつつある。それなら,日本市場と並行して,海外市場でも可能性を探るべきではないか。今後は,海外進出の足がかりとして,南米などの状況を国内企業にも現地で見せたいと考えている。

日本の携帯電話は高機能モデルが多く,海外では売りにくいといわれる。

 確かに海外に乗り出すためには,これまでとは違う工夫がいる。今と同じことを繰り返していては,さらなる成長は望めない。

 これまでは,国内でそれなりの台数が売れてきたが,普及台数が人口に近付き,今後は人口も減っていく。だとすると事業モデルを見直すべきだ。国際的な市場の動きは速い。今すぐにでも取り掛かからないと,海外勢に先を越され,水をあけられるだろう。

おサイフケータイのような日本発の技術を海外に発信する方法もある。

 技術の輸出については,標準化で海外企業との連携による良好な関係を築くべきだ。日本で作った技術をそのまま押し付けるのでなく,標準化の段階で双方Win-Winの関係をもたらすシナリオを立て,規格を作り,市場を広げていく必要がある。

 日本の技術だけで規格を固めて国内でしか売れないものを作る方法もあれば,日本の技術は3分の1でも,海外で3倍以上売るという方法もある。

 国内の携帯電話端末の開発体制を見ると,メーカーは数カ月おきに新しい製品を次々と投入しており,その潜在能力は高い。後は経営トップがどういう戦略判断をするかにかかっているのではないか。

 米グーグルの「Android」のような標準プラットフォームのほか,クラウド・コンピューティング,LTE(long term evolution)など,国際的な動向を踏まえつつ,日本の技術で先導できる部分を見いだしていくべきだ。

>>後編 

総務省 総務審議官
寺崎 明(てらさき・あきら)氏
1952年生まれ。74年東京工業大学工学部卒業,76年3月東京工業大学大学院修士課程修了。同年4月郵政省(現・総務省)に入省。93年電気通信局電波部電波利用企画課長,94年同移動通信課長,97年通信政策局技術政策課長,99年同総務課長,2000年に北陸電気通信監理局長,01年1月総務省北陸総合通信局長,2002年8月に大臣官房参事官,04年1月独立行政法人通信総合研究所理事,04年4月同情報通信研究機構理事,05年8月総務省総合通信基盤局電気通信事業部長,06年7月同政策統括官,07年7月総合通信基盤局長。08年7月に現職の総務審議官に就任。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年9月5日)

出典:日経コミュニケーション 2008年10月1日号 pp.61-62
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