大手企業の経営者にインタビューしていて、話がCIO(最高情報責任者)の役割に及んだ時、その経営者から「CIOが機能している日本企業はあるのか」と逆質問されたことがある。一瞬、虚を衝かれた私が質問の真意をただすと、「CIOは役員である以上、日常的に経営に関与しなければならない。しかし、そのような役割は見つからない」との答えが返ってきた。

 暴論のようだが、実はかなり怖い指摘である。例えばCFO(最高財務責任者)なら日常的な資金調達に責任を負っている。資金調達はまさに経営の根幹であり、戦略的な取り組みが必要になるから、CFOは経営機能にふさわしい。一方でCIOの場合、システムの運営に責任を負っているだけなら、それを持って経営への日常的な関与と言うには確かに無理がある。CIOが明確に必要なケースとして、この経営者が挙げたのは、企業が業務改革を迫られ、その推進役をCIOが務める場合のみだった。

 そうだとすると、日本企業の多くはCIOを必要としないということになる。実は、日本企業のCIOに取材を申し込むと、多くの場合、常務あるいは副社長といった上位の役員が取材に応じてくれる。一見、CIOが重視されているかのようだが、そういうわけではない。彼らは営業や財務などの担当とともにシステムの担当を兼務している。つまり、COO(最高執行責任者)やCFOがCIOを兼務している形だ。

 彼らは重責を担う役員なので、ITにも見識を持っている人は多い。ただ、どうしてもCOOやCFOとしての仕事に多くの時間が取られ、CIOとしての仕事の比重は小さくなる。逆に言うと、冒頭の経営者が指摘するように「システム関連で日常的に経営に関与するような役割が無い」のなら、CIOとしての仕事は“片手間”で十分ということになる。最近では、専任のCIOを廃止し、他の役員が兼務する形に切り換えた企業も出てきているぐらいだ。

 そもそも日本企業の場合、CIOの位置付けは以前から曖昧だった。日本企業においてCIOの必要性が明確に意識されたのは、1990年代に多くの企業がERP(統合基幹業務システム)を導入して業務改革を推進しようとした頃からだ。そうした企業は「ITで業務改革を行うなら担当役員がいる」と考え、専任のCIOを置いたり、IT部門を管掌する役員にCIOとしての役割を担わせたりした。

 だが、多くのERP導入プロジェクトは失敗する。標準プロセスの導入により業務の効率化を図り一般管理費を削減するというのが、この場合の業務改革。しかし、利用部門の抵抗に抗しきれず大幅なカスタマイズを行ったため、業務改革にはならず、開発や保守で膨大なコストを積み上げただけという結果になった。しかもそれ以降、2000年問題への対処を除けば大きな開発案件が少ない。かくして多くの企業で「CIOの役割が無い」という状況に立ち至った。

 もちろんCIOとして活躍している人たちもいる。彼らはITで新ビジネスを生んだり、ビジネスモデルを変えようとしたりしている企業で、その推進役を担っている。業務の標準化という“古典的”業務改革に取り組んでいる人もいる。冒頭の経営者が尋ねた「CIOが機能している企業は?」との問いに対して、私はそんな企業やCIOの名前を挙げておいた。要するに、COOやCFOなどとは違い、CIOは経営者とCIO自身の意思や取り組み次第で、その必要度が変わるのだ。

出典:日経コンピュータ 2013年9月19日号 p.69
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