「ピラミッド」でも「粘土細工」でもない

 古代エジプトの巨大なピラミッドをイメージしてみましょう。コンセプトを決め、建設する場所を決め、素材の輸送や加工の方法を決め、設計し、建設に着手する。この「国家プロジェクト」の推進過程では、素材選定ミスや、設計ミスによる後戻りなどは、許されるものではなかったでしょう。

 一方で、趣味で作る粘土細工をイメージしてみます。芸術家でない限り、事前にコンセプトを決めるようなことはせず、こねながら何を作るか決めていくものでしょう。何をもって完成とするかも明確ではありません。

 企業や自治体などの組織で使うエンタープライズ用途の情報システム構築は、プロジェクトの規模としては、ピラミッドよりはるかに小さく、粘土細工よりはるかに大きいものです。開発するソフトウエアは、素材である石より“柔らかい”ものの、手の上の粘土のような柔軟性があるわけではありません。

 情報システム構築プロジェクトは、両極の中間のどこかに位置するはずです。なのに“システム屋”側も、発注するユーザー企業側も、なぜか「小ピラミッド」型の開発手法を選択してきました。結果として「パッとしないピラミッドができてしまった」と両者が不満足で終わるケースを、私はたくさん見てきました。

「逆流阻止」は幻想にすぎない

 「ウオーターフォール=滝」では、水の流れは逆流しません。しかし情報システム構築の流れが全く「逆流=手戻り」せずに終わるケースは、むしろまれでしょう。

 私を含む“システム屋”は、プロジェクトが逆流しないために様々な工夫や努力をしてきました。部門を挙げて、企業を挙げて、IT業界を挙げて、「逆流」を阻止するための取り組みをしてきました。工程・成果物の標準化や、契約内容の吟味、プロジェクトリスク管理の手法などを進化させてきました。

 これらの努力を全否定するつもりはありません。しかし、逆流はしばしば発生するものなのに、「逆流はほとんどないはずだ」という前提で組まれた体制が、数十年間×数万プロジェクト分、積み重なってきました。この努力のごく一部でも、もし違う方向に向けていたならば、日本のIT産業は今とはかなり違う姿になっていたのではないか。そう思えてなりません。

 「逆流阻止」の取り組みは、ITベンダー各社とその従業員・システムエンジニアたちを実力以外の要素で格付けすることにつながりがちです。すべてのIT企業が「上流シフト」「元請けシフト」を掲げる中で、実態はどんどん乖離していきました。

 「35歳定年説」なる言葉までささやかれ、IT企業で働く人たちは若くして自己の将来に重苦しい天井を感じてしまいます。一方のIT企業経営者も、理想を語りつつ現実を嘆く事態に陥っています。

 こうした状況を何とか打開して、日本のIT産業がもっと良い方向へと進む手立てはないものでしょうか。次回以降で詳しく書きたいと思います。

第2回 なぜ「技術力のないシステムエンジニア」が通用するのか?へ)

佐藤 治夫(さとう はるお)氏
老博堂コンサルティング 代表
佐藤治夫氏写真 1956年東京都武蔵野市生まれ。79年東京工業大学理学部数学科卒業、同年野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。流通・金融などのシステム開発プロジェクトに携わる。2001年独立し、フリーランスで活動。2003年スタッフサービス・ホールディングス取締役に就任、CIO(最高情報責任者)を務める。2008年6月に再び独立し、複数のユーザー企業・システム企業の顧問を務めて現在に至る。趣味はサッカーで、休日はコーチとして少年少女チームを指導する。著書に『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経BP社)など。

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