著者に聞く

 テロリストなど予測不能な敵と戦う今日の軍隊では、中央集権ではなく、部下に権限を委譲するマネジメントが実践されている。著者は「簡潔なメッセージで部下にミッションを伝えることは、ビジネスリーダーにも必要」と話す。

(聞き手は、小林 暢子=日経情報ストラテジー)

岩本 仁氏岩本 仁(いわもと・じん)氏
マッキニーロジャーズ日本・アジア太平洋代表。東京工業大学卒業後、シック・ジャパンや仏LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業の日本法人トップを経て、2008年10月より現職。英国海兵隊式リーダー育成に従事

英国海兵隊式マネジメントとは何か。なぜビジネスにも役立つのか。

 軍隊といえば、部下は上官のコントロール通りに動くイメージを持たれがちだが、実際には上司は部下に権限を委譲している。遂行すべきミッションと制約条件を部下に伝え、具体的な行動計画には大きな自由度を与えるので、責任感が生まれ、結果的に成果に結びつく。

 権限委譲型のマネジメント手法は英国海兵隊などで研究され、1990年代に「ミッションコマンド」として体系化された。当社の創業者、ダミアン・マッキニーは、英国海兵隊の将校として1990年代にクルド難民移送作戦などに携わった。除隊後、ビジネスに応用し、ビジョンとミッションとリーダーシップに基づく組織運営手法を編み出した。企業を取り巻く環境も不確実であり、精神論だけでは組織は動かないからだ。グローバルではウォルマートやゴールドマン・サックスなどが、国内でも昭和シェル石油やローソンなどが取り入れている。

ビジョンとミッションは何が違うのか。

 ビジョンは組織が目指すゴールであり、ミッションはその実現に必要なステップだ。多くの企業は、社員にビジョンを示しているが、ミッションまで落とし込めていないので、権限委譲ができない。

 ミッションは、簡潔なメッセージで「何を(what)」「何のために(why)」やるのかを伝えなくてはいけない。部下はミッションを理解したうえで、「どうやるか(how)」を考えるからだ。

 1つのミッションにいろいろな要素を詰め込むと、部下は何から手をつけていいか分からずパニックになる。軍隊では命の危険に結び付く。ビジネスの場合は、経営者が戦略の優先順位をつけずに「全部大切」と言うような企業では、現場の社員は自分たちがやりやすいことばかりやるようになるだろう。

 私たちは企業に対して、効果的なミッションの作り方を含めた権限委譲のプロセスを組織に埋め込む支援をしている。またミッションを実行できるリーダーを育成するため、ゲームのようなアクティビティーを使ったトレーニングも行っている。

チームビルディング研修のようなものか。

 全く違う。チームビルディングはメンバー同士が理解を深めるために行うものだが、ミッションリーダーシップのトレーニングの目的はあくまで成果を出すこと。自己紹介もしなければ、お互いを知るための会話もほとんどない。成果を出すための行動の学習に限定し、目標設定や役割分担、指示の出し方などを体得できるようにしている。

英国海兵隊に学ぶ 最強組織のつくり方

英国海兵隊に学ぶ 最強組織のつくり方
岩本 仁著
かんき出版発行
1575円(税込)

出典:日経情報ストラテジー 2012年12月号 p.92
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。