A君は大手SI会社X社の入社3年目の若手である。このX社はいわゆる「元請け」と呼ばれる会社であり、実際の仕事は下請け会社に再委託する場合も多い。X社の上得意先であるユーザー企業が部門システムを改修することになり、そのプロジェクトのリーダーにA君が任命された。

 改修案件なので期間は3カ月程度の小規模なプロジェクトであったが、それまでの見習いのような立場からすれば、まさに初陣であった。A君の上司の課長がこのプロジェクトの担当SEに選んだのは、ベテランのBさんである。X社の下請け会社から派遣されてきたBさんは、下請け会社の社員ではなく、個人で案件ごとに契約して働くフリーのエンジニアであった。

 Bさんは1年のうち9カ月は仕事をして3カ月は海外に行くというライフスタイルを貫いていたが、エンジニアとしての腕が立つので、各所から引っ張りだこであった。Bさんと旧知の課長は強力な助っ人の確保にご満悦で「Bさん、A君の教育もよろしく頼むよ」、するとBさん「そんな高いお金はもらっていませんよ」、課長「いやあ相変わらず厳しいな」、と二人で大爆笑。そんなやり取りを見てA君はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

 客先の打ち合わせでもA君はBさんに圧倒される。現在のシステムの仕様や問題点をヒアリングしたときに、Bさんはユーザーの説明をすぐに理解し鋭い質問や指摘をする。ユーザーも「まさにそこが課題なのですよ」「なるほど、そういう手もありますね」とBさんに感心することしきりだ。

 A君はなんとか自分も気の利いたことを言おうとするのだが、ユーザーの説明を理解するのに精いっぱいで言葉が出ない。Bさんの発言がユーザーにうければうけるほど焦りが増す。とにかく何か言わねばと発言すると内容がトンチンカンで、ユーザーは「…」となり、それをBさんがフォローするといった状況だ。A君からすると、Bさんとは人間的な相性に問題はなく、年下のA君にも丁寧に話してくれるので、とっつきにくいわけでもない。

 だがA君としては、このプロジェクトのリーダーは自分であり、もっと存在感を発揮しないとまずいのではないかという気持ちが大きかった。またそれ以上に、課長やユーザーとの打ち合わせで、自分だけが蚊帳の外のような居心地の悪さを強く感じたのである。

 そこでA君は業務理解や設計能力ではBさんにかなわないので、プロジェクト管理の部分で存在感を出そうと考えた。Bさんは個人エンジニアにありがちな、管理資料の作成などはややアバウトなところがある。そこに目をつけたのである。A君はスケジュール表やWBSを詳細なものに作り直した。

 その点はユーザーにもBさんにも評価されたのだが、その後一人相撲をとってしまった。ようやく自分の出番がやってきたと張り切ったA君はいろいろと口を挟むようになった。Bさんとユーザーで決めたスケジュールであっても「それでは遅いので前倒しできないか」と求めたり、仕様変更を合意した点に関しても「リスクがあるのではないか」と蒸し返したりしたのだ。

 怒ったのはユーザーだった。「本当に分かっているのか?もしうまくいかなかったら、責任取れるのか!」。まさかのユーザーの激怒に驚きA君はしどろもどろになった。「まあまあ」とその場を収めたのは結局はBさんであった。

 A君はどうすればよかったのか。謙虚にベテランのBさんに従っていればよかったのか、あるいはBさんをもっと持ち上げて気分良く最大パフォーマンスを発揮させるようにすればよかったのか。営業担当者ならそれもありだろう。しかし、仮にも元請けのプロジェクトリーダーともなれば、結果はともあれA君のように何とか存在感を出そうと努力することは必要だろう。若手の頃には、悪戦苦闘するしかないことも多々あるのだ。その経験が後の糧となるのである。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「事例で学ぶRFP作成術実践マニュアル」「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)、
出典:日経SYSTEMS 2012年11月号 p.7
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