ITインフラの課題

 2011年3月に起きた東日本大震災は、大地震・大津波・原発事故の3つの災害が重なり、被災地のみならず関東を含む周辺地域に大きな影響をもたらした。社会情報システムに関しても、大震災発生後につぎのような課題が挙がり、災害時における社会情報システムの重要性と現行システムの脆弱性が明らかとなった。

  • 地震発生後、連絡を取りたい情報を入手したいときに、携帯電話を利用できなかった。
  • 被災地や被災者に対する適切な情報提供手段がなかった(ラジオが一番の情報源)。
  • 複数データを利用したサービス提供時に標準がないためマッシュアップに時間がかかった。
  • 避難所の被災者のニーズとそこに送られる救援物資のマッチングが取れなかった。
  • TwitterなどのSNSは有効だったが、被災地の利用者は少なかった(高齢者が多いため)。
  • TwitterなどのSNSでは、情報の真偽が難しく流言飛語が飛び交い混乱の原因にもなった。

 首都圏直下型大地震が発生する可能性が高まる今日、災害に強い社会情報システムの構築が重要な課題になってきている。

クラウドコンピューティングへの期待

 東日本大震災では、製造業など、工場の生産性向上を進めてきた生産システムに大きな被害を受けたが、流通業の本部システムや金融機関の基幹システムは無事であった。この理由は、生産システムが被災地の工場に設置されていたのに対して、流通業の本部システムや金融機関の基幹システムは、被災地から遠い耐震構造に配慮したデータセンターなどを利用していたことが挙げられる。

 さらに、被害を免れたデータセンター上で、クラウドコンピューティングを利用したサービスが素早く立ち上がり、被災状況をスピーディに共有することができた。例えば、大地震発生の約2時間後には、Googleが安否確認サイトを立ち上げた。そして、数日のうちに、トヨタやホンダといった自動車メーカーがGoogleやMicrosoftと連携して、自動車の通行可能な道路情報を公開した。その他にも、多くの被災者向けサービスが素早くリリースされて、災害に強いクラウドサービスの有用性が証明された。

 この大震災により、従来型社会情報システムの災害時における脆弱性が明らかとなったが、多くのITサービスベンダがクラウドサービスを無償で提供することにより、ITを活用した復興にむけた情報共有が進んだ。また被災された事業所が所有するIT機器の代替にクラウドサービスを使い、 短期に事務を立ち上げる動きも出てきた。

ソーシャルクラウドの重要性

 震災により、クラウドコンピューティングの有用性が明らかになった一方、その課題も浮かび上がった。サービス提供者の立場からみると、 複数のクラウドを利用して同一のサービスを提供する場合、アプリケーションをそれぞれのクラウド基盤向けにカスタマイズする必要があったり、クラウド間のデータの共有ができなかったりと、サービス提供者に大きな負担を強いていた。そして、利用者である被災者の立場からすると、同様のサービスが複数提供されていてどのサービスを使ったらいいか分らないといった問題や、サービス間で情報の共有ができていないため、すべての情報を一度に見ることができないという問題があった。つまり、利用者から見て、快適にサービスを受けられるといったレベルまでには至っていなかった。

 このような課題を解決するためには、公共の情報をはじめとする被災に必要なさまざまなデータを共有、統合するため仕組みや、社会全体で迅速にサービスを連携させる仕組みが求められる。そして、そのためのインフラとして、クラウドコンピューティングを社会(ソーシャル)レベルで捉えるソーシャルクラウドが期待されている。

ソーシャルクラウドへの期待

 複数のソーシャルデータを統合し有効活用する試みは、災害時だけではなく、快適な個人生活、安全・安心なスマートシティ、地球環境との共生を目指す“10年先を見据えた新世代の社会情報システム”の根幹を成すものとして期待されている。ソーシャルデータは、一般的にSNSに代表されるソーシャルメディアのデータを指す場合が多い。しかし、今回連載する記事では、ソーシャルクラウドで利用するデータの集まり、具体的にはソーシャルメディア、コンテンツ、各種実績データ、オープンデータ、ストリームデータなど、これからの情報化社会で共有していく幅広いデータ全体を指す言葉として用いていく。

 スマートシティや新世代社会情報システムの実現に向けたクラウド技術の活用は、ソーシャルクラウドそのものの実現と捉えることもできる。 ソーシャルクラウドは、電力消費や投資コストを最小限に抑え、新事業の創造を促進し、大災害に強い社会インフラとして注目され始めている。

 日本でのソーシャルデータの利用は、現状、クラウドによるコスト削減を主軸に置かれているのが実態である。このため、ソーシャルクラウドに関しては、技術面で欧米諸国に大きく後れ始めてきたと言わざるをえない。ソーシャルクラウドは、今後のビジネスの成功の鍵を握るエコシステムを形成する重要な基盤となると期待されている。技術面の後れを挽回するためには、強力なパワーを持って先行している欧米諸国のグローバルITベンダに対抗して、日本のグローバル進出の武器となる優位性を獲得する仕組みが必要である。そのためには、東日本大震災における各種事例を持つ強みを活かして、特に利用者視点でソーシャルクラウドのあるべき姿を描き、その実現に向けた活動を始めることが重要である。

図1●ソーシャルクラウドの背景と期待
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