このところ注目される起業の多くが、ネット関連のビジネスに集中している。ここ数年、クラウド・コンピューティングやスマートフォンの普及を背景にネット関連の起業のハードルが下がり、2012年にFacebookのIPO(新規株式公開)があったことで、その傾向にはさらに拍車がかかったと言えるだろう。

 その一方で米国には、起業時の手法として注目される「リーン・スタートアップ」や「顧客開発」を、ネット以外の領域にも応用しようという動きがある。

「無駄のない発射台」に乗る科学者たち

 2012年5月下旬の米スタンフォード大学の講義室に、全米から科学者チームが集まった。エール大学、オレゴン大学、コロンビア大学、ニューヨーク州立大学、バージニア工科大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ミシガン大学――。そのチーム数は24に上る(写真1)。
写真1●全米の大学から24の科学研究チームがスタンフォード大学に集結
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 所属大学だけでなく研究テーマもまちまちだ。「複合材料によるナノコーティング」、「在宅治療する心臓疾患の患者と病院間のメッセージングシステム」、「電気化学による脱塩セル」、「壁面歩行ロボット」――。彼らは、割り当てられた15分ずつの時間を使って自分たちの研究内容と事業化計画を次々と発表していく。早朝に始まった発表会は、休憩と昼休みを挟んで夕方まで続いた。

 所属も研究テーマも全く異なる彼らが共通に目指していること。それは「起業」である。自分たちの研究を事業化に結び付けようと、全米科学財団(NSF)が運営する「イノベーション部隊」(I-Corps)プロジェクトを通じて、スタンフォード大学での起業カリキュラムを受講したのだ(写真2)。一般的な起業家のイメージからは少々年齢が高めかもしれない彼らだが、自分たちの研究を何とか事業に結び付けようと目を輝かせて自分たちの研究成果とその可能性をアピールした。

写真2●NSFが推進する「イノベーション部隊」(I-Corps)
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 彼らの先生役を務めるのは、スタートアップ向けの「顧客開発」の手法や「アントレプレナーの教科書」「スタートアップ・オーナーズ・マニュアル」の著者として知られるスティーブ・ブランク氏だ(写真3、関連連載:今こそ! シリコンバレーに学ぶ“興す力”――ブランク氏ブログ集)。

写真3●スティーブ・ブランク氏
スタートアップ向けの手法「顧客開発」や著書「アントレプレナーの教科書」などで知られる。
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 ブランク氏は、もともと学生向けに提供していた起業のためのカリキュラム「リーン・ローンチパッド」を、科学研究分野に応用しようという試みを2011年から始めた(関連記事:ブランク氏ブログ スタンフォード大学の2012年リーン・ローンチパッド・クラスの報告)。リーン・ローンチパッドは、直訳するなら「無駄のない発射台」。できるだけ短期間で事業化にこぎつけられるように、事業のアイデアや意欲を持つ生徒たちにレッスンを施すというわけである。

 科学研究に応用しようというブランク氏の取り組みの背景には、「ソーシャルメディアへの過度の注目」があるという(関連記事:ブランク氏ブログ なぜ、Facebookがシリコンバレーを殺そうとしているのでしょうか?)。ベンチャーキャピタル(VC)の投資がソーシャルメディア一辺倒になり、それ以外の科学技術分野への投資がなくなってしまうことを懸念する。そこで、I-Corpsを通じて、科学分野にも資金が回りやすくなるような環境作りをしようというわけである。

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