数多くあるメールの便利な点の一つに、資料を添付できることがある。電話が全盛の時代はFAXを併用して資料を送るしかなかったが、メールであればマウス操作で簡単に資料データを添付して相手に送ることができる。

 PM(プロジェクトマネジャー)は、報告資料やプロジェクト管理資料などステークホルダーとさまざまな資料をやり取りしている。その中には、他の人が作った資料をもらうことも多い。

 このときPMは、もらった資料をそのまま別の人に送ってはいけない。その資料が想定外の人の手に渡ったことで、大きなトラブルに発展してしまうことがあるからだ。

人が作った資料をそのまま送ったPM、Jさんのケース

 SIベンダーに所属するPM、Jさんはあるとき、プロジェクトを一緒に進めているユーザー企業の担当者から、「このプロジェクトとは別のテーマで案件を立ち上げようと思っているんだ。Jさんの会社も得意な分野だと思うので、提案してくれないかな」と言われた。

 「そのテーマのプレゼン資料は、確かセールスエンジニアのUさんが用意していたな。すぐに提案できるぞ」。そう思ったJさんは早速、Uさんにお願いして、プレゼン資料を一式送ってもらった。Uさんから届いた提案資料は、数十枚に上るスライドが含まれている「フルバージョン」、分量が軽めの「初回訪問用バージョン」、さらにスライドの数を絞り込んだ「配布用バージョン」の三つがあった。用途に合わせてUさんが用意してくれたのだ。Jさんはそのうち初回訪問用バージョンを使ってプレゼンテーションを行うことにした。

 Jさんがプレゼンしたところ、ユーザー企業の担当者も強い関心を寄せてくれた。手ごたえを感じたJさんは、「あとで資料をメールに添付して送ります」と伝えた。

 「これはかなり本気で検討してくれそうだぞ。詳しい方がいいだろうから、Uさんからもらった三つの資料のうち、配布用ではなくフルバージョンの資料データを送ろう」。フルバージョンの資料データには、システム導入事例や製品スペック、価格表も掲載してある。本気で検討してくれるユーザー企業の担当者にとって必要な情報がすべてそろっているわけだ。Jさんは早速、フルバージョンの資料データを添付し、メールを送った。

 ところが、Jさんが送ったフルバージョンの資料データで大きなトラブルが巻き起こった。

 Jさんが送ったフルバージョンの資料の中には、別のユーザー企業F社の導入事例が紹介されていた。実は、F社からは、事例として外部に公開しないように求められていた。Uさんはそれを知っていたので、フルバージョンには入れていたものの、初回訪問用バージョン、配布用バージョンにはF社の導入事例は入れないように注意していた。

 UさんはJさんに求められて資料を送るとき、「Jさんなら古い付き合いだから大丈夫だろう」と思い、フルバージョンを含めた三つすべての資料を渡していた。Jさんは三つのうち、フルバージョンの資料データをプレゼン後に送った。このとき送った資料データは、Jさんからもらった状態のまま。Uさんはうっかり内容を確認せずに送ってしまった。

 フルバージョンの資料を受け取ったユーザー企業の担当者は、すぐに社内の関連部署にメールを転送した。その転送先の中に、F社と取引がある社員が含まれていた。フルバージョンの資料を読んだその社員、F社に行ったとき「F社さんもうちが今、導入を検討しているSIベンダーにシステムを開発してもらったんですね。できたシステムの使い心地はどうですか」と尋ねた。ここでいうSIベンダーはJさんが所属している会社のことである。

 「どうして当社がそのベンダーに開発してもらったことを知っているんですか」と、F社の担当者はびっくり。SIベンダーから、情報が漏れていることが発覚してしまったのだ。F社はすぐに、Jさんたちの会社に猛烈に抗議。一時は、取引停止になるかという事態にまで発展してしまった。

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