写真1●米国サンフランシスコ市の風景
写真1●米国サンフランシスコ市の風景

 今回は、米国サンフランシスコ市からです。サンフランシスコ市近辺には、IT系スタートアップ企業がひしめくシリコンバレーがあります(写真1)。今後、アジア各地の起業方法を紹介していくために、本場を見ておこうとこの地を訪ねました。現地在住のエンジニアのスタートアップ体験からレポートしましょう。

 今回うかがったのは、堀内公平さん(Twitter ID:@hamhei)です。情報処理推進機構の未踏ユース事業でクラウドに関するアプリを開発し、「Interop2010クラウドコンピューティングコンペティション」にてIBM特別賞を受賞したエンジニアです。現在は電気通信大学大学院を休学し、単身武者修行に出ています(写真2)。

写真2●堀内公平さんの仕事場
写真2●堀内公平さんの仕事場

 1年前、堀内さんは、シリコンバレーで働いていたエンジニアと一緒に起業しました。当初は「離れていてもコミュニケーションツールが発達しているから大丈夫だろう」と考え、日本に帰国。しかし「設計や実装の方針をディスカッションしたいが、時差の関係で思うように出来ない」という件が多発し、解散してしまいました。「サービスのコアを作る時は、メンバーが近くにいることが重要」と、堀内さんは言います。

 シリコンバレーの現在の開発スピードは「時差さえ待てないレベル」です。著名なベンチャーキャピタル(VC)であるY Combinator社の特徴は、起業時期に200万円程度(3カ月の運転資金)を与え、「この期間に集中的に指導し他のVCから投資を受けられる状態まで育てる」という手法です。

 Y Combinator社には「ピボット」、日本語で「路線変更」といえる考え方があります。当初のサービスに対する市場が小さいと分かれば路線を変更します。これを素早く実行できるかが成功要因の一つと言われています。Y Combinator社は3カ月間に最低1回のピボット、すなわち“試行錯誤の上、あきらめるまで”が終わっているべきと考えているのでしょう。時差で時間を無駄にする余裕はないのです。

 堀内さんがシリコンバレーに戻ってこれなかった理由の1つとして、ビザの取得が困難だったことが挙げられます。通常は起業を夢見る人であれば、まず労働ビザを取得しますが、いまこれが取得できません。労働ビザは現地で職があるのが前提ですが、不況により、ビザ所得費用が掛かるのを企業がいやがり、現地採用が多くなっています。外国人は労働ビザの申請にたどり着けないわけです。

 堀内さんは現在、NTT Multimedia Communication Labratory(NTT MCL)で働いています。NTT MCLでは毎年現地研究員を募集しており、ビザ取得をサポートしてくれています。起業の準備をしながら、CCN(Content Centric Network)の可能性をAndroidベースで研究しています。

 シリコンバレーでは、アジアにはない起業のための好環境がそろっています。例えば、起業に重要な仲間探しも日本では「シェアオフィスを借りたり勉強会に参加したりして仲良くなってから」と時間や費用が掛かります。

写真3●レストラン入り口にあるステッカー
写真3●レストラン入り口にあるステッカー

 一方シリコンバレーでは、レストランに“この店は、こんなサービスに登録しているよ”というステッカーが貼ってあります(写真3)。そのサイトにお店のチャットがあり、今いる他のお客とやり取りできるのです。お店にはWi-Fiと電源装備があり長時間開発できる環境なので、意気投合したハッカーとその場で仲間になっていきます。無駄な時間を省くことに力点を置いたエコシステムがシリコンバレー流なのです。

レポーター:今村のりつな
SIProp.org 代表/OESF CTO
PC系から新時代に移行するためのエコシステムを台湾の政府系研究機関で開発中。
出典:日経Linux 2012年2月号 p.12
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。