「Lean Startupとは自動車の運転」

 エリック・リースの著書Lean Startupを読み込んだというクックパッドの石田忠司Happy Author部副部長は、「自動車の運転と宇宙船の発射の例え」が印象的だったという。スタートアップの経営は、運転者が周囲の状況を逐次判断し、ハンドルやアクセル、ブレーキを使い分けているという点で自動車の運転に近い。ロケットの噴射やブースターの点火などがあらかじめ設定されていて、いったん動き出すと修正がしにくい宇宙船の発射とはまったく違うとする内容だ。

 石田氏がこの例えを見て思い出したのが、大手消費財メーカーとのやりとり。戦略の正誤と実行力の有無のマトリックスで、どれが望ましいかという議論だったという。戦略が正しく実行を伴う場合がベストで、戦略が間違っていて実行しないが最悪のパターンであることは疑いようがない。

 話題になったのは、「戦略が正しく実行しない場合」と「戦略が誤っていて実行を伴う場合」の評価。大手消費財メーカーでは、生産設備への投資や雇用を伴うことから「戦略が誤っている」ことは致命的だという立場。しかし石田氏は、実行を伴えばすぐに間違いに気付いて修正できると考えた。「戦略が誤っていて実行を伴う」の方が、成功にたどりつく可能性が高いとみたのである。これは、初期投資が大きい大手消費財メーカーと、比較的小さいWebサービス開発企業の違いと言えるだろう。

社内で読書会を開いたデジタルガレージ

 Lean Startupに注目し、組織的に取り組んでいる企業の一つが、TwitterやLinkedInをはじめとするスタートアップ企業に出資するなど企業支援を行っているデジタルガレージだ。

 同社では、2011年11月に「Lean Startup」をテーマとしたビジネスカンファレンス「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2011 Fall」を開催。米国のシリコンバレーをはじめ世界各地からスピーカーを招き、Lean Startupの実践についてパネル討論形式で意見交換した。

 社内でも、英語版の書籍が出版された段階で読書会を開き、社員全員がすべてを読み切ったという。仕事を進めるうえでも、MVP(Minimum Viable Product:仮説の検証に最低限必要な製品)やマトリックス、成長エンジンや仮説の検証など、書籍に書かれている内容を自分の仕事に当てはめようという風潮が出始めたという。

 同社取締役の安田幹広氏は、Lean Startupに注目した理由を「これまでは属人的なノウハウになっていた知識が、体系だてて誰にでも理解しやすい形になっていたから」とする。「やってみないと分からない要素が多いネットの新規事業や企業環境では、バイブル的な存在になっている」という。

 新しいサービスを立ち上げる際に、仮説を顧客にぶつけて検証を繰り返すというスタートアップ向けの手法は、大企業など規模が大きい組織にも応用できそうだ。米国では、NSF(全米科学財団)が、大学での研究プロジェクトに適用を図っている(関連記事)。その成果は、2012年春にも発表される予定になっている。