企業がスマートな「神経」を作るには、まず人間の目や鼻といった感覚器官に当たる機能を整備し、“感度”を高める必要がある。大量のデータを高速処理できるデータ・ウエアハウスなど、技術の進歩によって様々な場所からあらゆるデータを取得できるようになってきた。JR東日本ウォータービジネスは顔認識センサーなどを使って自動販売機の利用客の属性を把握し、商品開発に生かしている。

JR東日本ウォータービジネス
スイカや顔認識で顧客の属性を把握、自販機の品ぞろえや商品開発に生かす

 多くの乗降客が行き交うJR品川駅(東京都港区)のコンコース。ひときわ目立つ自動販売機の周りに人だかりができている。前面が47インチのタッチパネル式ディスプレーになっており、画面に表示された飲料のサンプルに触れると、その商品を購入できる。これはJR東日本ウォータービジネス(東京都渋谷区)が2010年8月から展開している次世代自販機だ。2011年1月までに、品川駅のほか東京駅、横浜駅などに計30台設置した。2年以内に500台程度の展開を計画している。

 自販機の前に立つと、画像上に「おすすめ」の表示がポップアップされ、その人に合った飲料を薦めてくる。性別・年代や時間帯、その日の気温や天候を判定材料に、夕暮れ時に来た中年男性ならドリンク剤、寒い朝に来た若い女性ならホットの無糖紅茶飲料を薦めるといった具合だ。話題性もあり、売り上げは従来型自販機の3倍程度に達している。

 無人の自販機でなぜ購買客の性別や年代を識別できるのか。実は、ディスプレー上部に埋め込まれた小型カメラが、自販機の前に立った人の顔を認識している。しわや目鼻の配置など顔の特徴を捉え、10代以下から60代以上までの年代と性別の14パターンの属性を瞬時に判別する。

 話題性や売り上げの向上以上に、マーケティングデータの取得を狙っている。この属性データを基に商品を薦めると同時に、購入に至った場合は属性と購入時刻、購入商品を記録して、データセンターにあるPOS(販売時点情報管理)サーバーに送信する。属性の識別精度は仕様上75%前後だが、ポイントカードのように会員登録によって属性を把握する手続きを省けるメリットは大きい。

仮説・検証で「勝ちパターン」を発見

 「今まで分からなかった自販機利用者の“顔”がようやく見えるようになった」とJR東日本ウォータービジネスの田村修代表取締役社長は話す。実際、ここ数年データ取得の網を広げてきたことで様々な施策が可能になった。データから発見した「勝ちパターン」の1つが、「女性をターゲットに糖度の高い飲料をあえて売る」という施策だ。

 2010年2月から、女性向けにパッケージデザインした桃やりんごなどの果汁飲料を順次発売。250ミリリットル強の少容量ながら130~150円という高めの価格設定をした。各商品ともオリジナル商品としては異例の4万ケース前後を完売し、2011年2月には第6弾を販売した。

 取得した属性データを生かして仮説・検証のサイクルを回している()。例えば、第4弾の洋なし果汁飲料には、「クールド・ラフランス」という女性を意識した商品名を付けた。ところが、女性の購入比率は43%と想定より低い一方、「男性が夕刻に購入している」というデータが出てきた。「果汁飲料には、男性会社員の小腹を満たしたいニーズがありそうだ」(田村社長)とみて、第5弾のりんご飲料は「青森りんご」という商品名を大書きするなど男性向けのパッケージに変えた。狙いは当たり、男性購入比率が70%近くに達した。

図●JR東日本ウォータービジネスのデータ取得の仕組みと狙い
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 JR東日本ウォータービジネスが顧客の属性データ取得に注力するのには理由がある。同社はJR東日本の駅構内に自販機約9400台を展開する。2006年に同社を設立するまでは恵まれた経営環境を生かしきれていなかった。「自販機の好適地は限られるため台数を増やすのは容易ではない。デフレの波に流されると売り上げはジリ貧になってしまう」(田村社長)。だからこそ、自動取得したデータを品ぞろえや商品開発に反映することで単価の維持や引き上げ、さらに自販機1台当たりの利益最大化を狙ったわけだ。

 もっとも、冒頭の次世代自販機はまだ台数が少ない。現時点で顧客データ取得の中核になっているのは、2009年12月に導入を始めた「VT-10」と呼ぶ新型の電子マネー決済対応自販機だ。

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