「デジタルコンテンツを快適に使えるようにする」というその1点に向けて、端末のユーザーインタフェース(UI)やハードウエアからクラウドサービス、ECプラットフォーム、コンテンツまでを厳密に調整し制御する――。米Amazon.com(以下Amazon)オリジナルのタブレット「Kindle Fire」が手元に届いて早1カ月。本連載のための調査・執筆を通じて筆者は、Kindle Fireが持つ斬新さや、様々な市場に与えるインパクトの大きさをますます強く感じている。それは199米ドルという激安価格だけではない。

 他のタブレットのように自分好みのアプリを入れて便利なモノに育てるタイプの製品でないことは、実物を触ってみるとすぐ分かる。Kindle Fireはユーザーにとって、あくまでAmazonが提供する様々なデジタルコンテンツを楽しむための“自動販売機”や“コンビニエンスストア”のようなものだ。その範囲においては、整然としたUIと滑らかな操作性を体感できる。こうしたユーザー体験を必要十分なハードウエア性能やAmazon得意のクラウド技術で支えている。

 提供側の視点に立って言えば、Kindle Fireは、EC事業を核に“垂直統合型”のサービスモデルを作り上げてきたAmazonにとって「パズルの最後のピース」ということになるだろう。

 まさにこれとよく似たアプローチで、タブレット市場の覇権を握っている企業がある。iPadを擁する米Appleだ。同社もまた、端末からクラウド、ECプラットフォーム、コンテンツまでを1社でコントロールできる存在である。そもそもAppleはコンピュータメーカーであり、かたやAmazonはEコマース事業者だが、中核ビジネスが全く異なる両社のサービス領域が今、かなりの部分で重なり合っていることは注目に値する(図1)。

図1●Amazon、Apple、Google各社が現在展開しているサービスモデル
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 では、モバイルデバイス市場でAppleと戦う米Googleはどうか。インターネット上の検索・広告ビジネスからスタートした同社は“水平分業型”のサービスモデルを推進してきた。スマートフォン向けOSとして同社が開発を主導するAndroidが典型的な例だ。初期からオープンソースとして提供し、世界中のメーカーが採用したことでスマートフォン市場を席巻した。

 しかし2011年以降は、Androidのユーザー体験をある程度コントロールするためのゆるやかな統合を進めている。例えばタブレット専用OSのAndroid 3.x系については、製品の完成度を高めることを重視し、ソースコードの開示先を一部メーカーに限定した。Android端末メーカーである米Motolora Mobilityの買収も(背景にAppleとの特許紛争があるにせよ)、Androidにおけるユーザー体験の向上と無縁ではないと筆者は見ている。さらにアプリ、映画、音楽、電子書籍などをモバイルデバイスへまとめて提供するための仕組みも整いつつある。Androidマーケットにアクセスすると、アプリや映画といったタブが用意され、各コンテンツを手軽に購入できるようになっている。

 企業の成り立ちも主力事業も全く異なるAppleやGoogleと競合する立場になったAmazonが、どのような方策でサービスを強化し、ビジネス全体を拡大しようとしているのか。最終回となる今回は端末の仕様を詳細にチェックしながら、Kindle Fireに秘められたAmazonの戦略を解剖していこう。

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