防災デジタル・コミュニティラジオ連絡会は、「InterBEE 2011」(2011年11月16日~18日開催)において、「東日本大震災の教訓と新しい防災ラジオの登場~その時市民は何を求めたか?そして、V-Lowデジタル・コミュニティラジオへの期待~」と題し、シンポジウムを開催した。このシンポジウムには、宮城県名取市の佐々木一十郎市長、名取臨時災害FM統括の若生毅弘氏、いわき市民コミュニティ放送パーソナリティの坂本美知子氏、逗子・葉山コミュニティ放送代表取締役/CSRA(Community Simul Radio Alliance)代表でジャーナリストの木村太郎が参加した。震災時の状況や臨時災害放送局の立上げ、東日本大震災における教訓を踏まえて、防災ラジオのあり方やV-Low帯を利用したデジタル・コミュニティ放送の方向性について議論した。前編では名取市といわき市、逗子・葉山の震災時の状況と臨時災害放送局の立ち上げやその放送などを通じて、地域にメディアを持つことの意義などの議論を報告する。

停電でTVが見れず防災無線も故障、いわき市の状況

写真1 名取市長の佐々木一十郎氏(左)といわき市民コミュニティ放送パーソナリティの坂本美知子氏(右)
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 宮城県名取市市長の佐々木一十郎氏は、震災当時を次のように振り返った。「名取市は、津波の地上での被害をこれまでに受けたことが無かったため、津波に対しては危機感を持っていなかった土地柄だった。地震発生時直ぐに災害対策室を立上げ、その時に津波警報があり海岸部全域に避難指示を出した。しかし地震発生直後に停電になったことで、住民の方々がテレビを見ることができなかったため、岩手県など先に津波が襲ったところの映像を見ることができなかった。そのため、被災地では割れた窓ガラスを片づけていたり、倒れた家具を直したり、住民には逃げようという意識が無かったようだ。その中で我々は、消防署の広報車で一生懸命に避難誘導行ったが、地震発生から津波が到達するまでに1時間程度の時間内でどれだけ避難誘導ができたか、避難指示が徹底されたか、これが我々にとって問題点だった」。

 名取市では、海岸部と各公民館に屋外防災無線が設置されており、広報車での避難誘導と併せて、屋外のスピーカーから避難の呼びかけを行った。しかし後から検証すると、装置の電源が地震の影響でショートとしており、音が全く出ていなかったという。佐々木市長は「防災無線が全く機能していなかったことは非常に残念な結果であり、避難指示が徹底されたか、我々にとって問題点だった」と語った。名取市では、津波の被害は甚大であり、特に人口約7千100人の街である閖上(ゆりあげ)漁港が津波でなくなった。仙台空港の周りにも107戸程の集落があるが、ここも全部流出して、家がなくなった。名取市では多くの遺体が発見されており、未だに行方不明のままの人もいるという。

 一方、福島県いわき市内の中心部は、地震の被害も大きくなく機材の損傷や停電の被害もなかったことと、湯の岳山頂にある送信所も停電もなく損傷もなかったことから、「放送も止めずに、緊急放送に切り替えることができ、24時間放送を行うことができた」といわき市民コミュニティ放送でパーソナリティを務める坂本美知子氏は説明した。停電もなかったことでインターネットやテレビから情報を得ることができたため、比較的早く被害状況や津波の状況など、繰り返し放送することができたという。

難視聴地域である逗子・葉山・鎌倉地域はコミュニティ放送が重要な情報収集手段

写真2 逗子・葉山コミュニティ放送代表取締役/CSRA代表でジャーナリストの木村太郎氏
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 逗子・葉山・鎌倉地域の地震発生当時の状況について逗子・葉山コミュニティ放送代表取締役/CSRA代表でジャーナリストの木村太郎氏は、「震災直後電話が通じなかったこともあり、インターネット放送を聞くことで、緊急放送に切り替わっていたことと、鎌倉・葉山・逗子地域は停電していることを把握した」という。そして、この逗子・葉山・鎌倉地域は地上デジタル放送やAM放送の難視聴地域であるため、ラジオやテレビを見ることができないことに加え、逗子・葉山・鎌倉は東京から50kmの距離にあり、帰宅困難者を受け入れる側になるため、「東京の状況を知りたいのではないかと思い、インターネットを利用して、Skypeやメールを使いスタジオへ東京の情報を送った。また、自家発電を利用した24時間放送を実施し、NHKが放送している内容を引用するかたちで、NHKの情報であると出所を明示し、東京の情報を放送で伝えるように指示した」と木村太郎氏は語った。

 その後、東京の情報に加えて、震源地がある東北地方の津波や地震の状況も伝えるように指示したという。後で聴いた話として「地元の人たちは、この東北地方の状況を伝えるまで、何が起きているのか分からなかった人たちがいた」と述べ、「我々コミュニティ放送では、地元の状況を細かく伝えていたが、それだけではだめ。我々コミュニティ放送局は小さな放送局ではあると思っているが、聞いている地元の人たちはそうではなく、このコミュニティ放送を通じで地域外のこと、国内のこと、世界のことを伝えなければならないということが改めて再認識できた」と木村太郎氏は説明した。

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