佐賀県武雄市は、米AppleのiPadを利用した電子図書館サービス「武雄市MY図書館」(アプリ開発:コアラ)を2011年4月13日に開始した。「武雄市MY図書館」は、iPad用図書館アプリを用いて、図書館に行かなくても図書を借りられるサービスである。距離が離れていたり子育てで図書館に通えない人に対するサービスの拡充や、障害者支援などを目的に、実証実験として実施する。

 利用者はMY図書館を使って、24時間いつでも電子化した図書を借りられる。1度に借りられるのは5冊までで、最長15日間利用できる。貸出期間を過ぎた書籍データは、自動的に削除される。iPadを持っていない人のために図書館でiPadを準備し、iPadごと貸し出すサービスも提供する(当初10台、11年度内に100台まで拡張予定)。実証実験は佐賀県内在住者または武雄市に通勤・通学し、武雄市図書館・歴史資料館の図書利用カードを持っている人が対象で、当面1000人を上限とする。

地域コンテンツの掘り起こしと活用促進

 こうした先進的な取り組みを地方自治体の武雄市が先行して取り組む背景には、地方自治体だからこそ受けられるメリットがあると説明する。武雄市は2006年に市町村合併し、面積が旧武雄市の約1.5倍に広がった。その結果、市内に一つしかない図書館の分館を求める市民のニーズと、拠点を増やさずに図書を充実させたい図書館の方針にギャップが生じているという。手元の端末で書籍を借りられるMY図書館なら、図書館と住民双方のニーズに対応できる。武雄市では2011年度中にもMY図書館サービスをAndroid端末やパソコンなどに対応させ、より多くの市民が利用できる環境を整備する。

 地方自治体が電子図書館に取り組むもう一つの理由として武雄市は「市民参加型の地域コンテンツの利活用促進」を挙げる。市民にとって身近な情報を満載した市報などは、デジタル化によって利用しやすくなれば「キラーコンテンツになる」とみている。また、市内の子どもたちが書いた作文や、一般市民による自分史、郷土史、小説、ノンフィクション作品など、これまで図書館で扱ってこなかったコンテンツについても、内容を審査した上でMY図書館で取り扱う。「本を借りて読むだけでなく、書いて情報を共有/発信する場として活用することで、地域コンテンツの掘り起こしと活用を目指す」(武雄市)と狙いを説明する。

権利処理や新刊図書をどう扱うのか

 複数の利用者が同時アクセス可能な電子書籍を図書館が無料で無制限に貸し出した場合、著者や出版社、書店といった既存の出版事業に与える影響は大きい。これまでの図書館による電子書籍に関する取り組みではこうした点を考慮し、蔵書をデジタル化してデータ保存するまでを主目的としていたり、電子化した書籍は館内閲覧のみに限り外部には貸し出さないケースが多かった。

 こうした取り組みに対し今回の武雄市のサービスは、「既存の図書館サービスの延長」と説明しており、市民への貸出利用を主眼に置いている。そのためMY図書館の構想に対しては、賛否両論の様々な意見があったという。この点について武雄市は、「図書館法の枠内で(出版業界と)どうタイアップするかきちんと考えていく」、「学術書や古典など、時間が経っても親しまれるものを中心に提供する。発刊して間もないものはMY図書館では提供しない」と、民間の出版事業とは明確にすみ分ける方針を示した。

 武雄市はMY図書館で提供する具体的なコンテンツとして、市が著作権を有する「市報」などの図書や「青空文庫」が扱う著作権保護期間が経過した作品を挙げる。当面貸し出し可能なのは市が著作権を持つ作品9冊で、2011年度中に100冊まで増やすという。さらに今後出版社の協力を得て、著作者の許諾を得られた作品を追加する。このほか障害者などに対するデジタル図書館サービスの整備を目的に、既存図書のデジタルデータ化も実施する。最終的には今後3~5年程度をかけて、武雄市図書館の蔵書約18万冊中、権利処理が容易なものを中心に約10万冊の提供を目指す。

 今回の実証実験は慶応義塾大学との共同プロジェクトとして実施し、武雄市MY図書館名誉館長に中村伊知哉慶応義塾大学教授が、名誉副館長に菊池尚人慶応義塾大学准教授が就任する。また今後、武雄市図書館デジタル化推進協議会を大学などと連携して設置する。ここでは、現在個々のプロジェクトごとにバラバラに進む図書館電子化の取り組みについて、産官学が共同で手がけるロールモデル作りにも取り組む。

出典:日経ニューメディア 2011年4月18日号 12ページより
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