企業/団体が,管理不行き届きなどで個人情報を漏えいし,被害者に賠償金や補償金を支払うケースが増えている。今回は,個人情報が漏えいした場合の損害賠償責任について解説しよう。

 1998年に早稲田大学が,中国の江沢民国家主席の講演会を企画した。警視庁は,首席の警備のために講演会参加希望者の名簿を提出するよう,早稲田大学に要請。早稲田大学は要請に応じて,講演会に参加する学生の学籍番号,氏名,住所,電話番号を記入した名簿を事前に警視庁に提出した。

 11月28日に開催した講演会では,「中国の核軍拡反対」などと大声で叫んだ一部の参加者を,警察が「威力業務妨害」などで現行犯逮捕した。逮捕された学生は,「大学が名簿を無断で警視庁に提出したのは,プライバシを侵害する不法行為」と主張し,99年に損害賠償を求める訴訟を起こした。

 第一審(東京地方裁判所)および控訴審(東京高等裁判所)は,「大学が名簿を警視庁に渡したのは主席の安全を図るための正当行為である」として,不法行為の成立を認めなかった。このため,学生は最高裁判所に上告。最高裁は,「学籍番号,氏名,住所,電話番号は,早稲田大学が学生を識別するための単純な情報なので,秘匿すべき必要性は必ずしも高くはない」としたものの,「このような個人情報について,本人が第三者にみだりに開示されたくないと考えるのは自然なことであり,その期待は守られるべきである。従って早稲田大学が提出した名簿は,学生のプライバシ情報として法的保護の対象となる」と判示した。

 さらに,「個人情報を警察に開示することを明示したうえで講演会参加希望者を募ることは可能だったにもかかわらず,そのような手続きをとることなく無断で個人情報を警察に開示した行為は,プライバシを侵害する不法行為に当たる」と指摘して,控訴審判決を破棄し事件を東京高裁に差し戻した(最高裁判所2003年9月12日判決,判例時報1837号3頁)。その後,東京高裁は講演会に参加した学生1人当たり5000円の慰藉料(いしゃりょう)を支払うよう早稲田大学に命じた(東京高裁2004年3月23日判決,判例時報1855号104頁)。

 個人情報を漏えいした企業/団体が,被害者に損害賠償金や補償金を支払う事件が相次いでいる(表1)。本連載の最終回である今回は,個人情報が漏えいした場合の損害賠償の法的根拠と賠償額の算定基準について解説する。ITベンダーを含むすべての企業にとって,個人情報保護は極めて重大なテーマ。個人情報保護の重要性を知るためにも,しっかりと理解しておきたい。

表1●個人情報漏えい事件の損害賠償・補償額
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